宝石の雨
宝石の雨
賢治は幼いころから鉱物収集が趣味でした。その後地質学も学んだ事から、その豊富な知識が作品にちりばめられています。童話・十力の金剛石はまさしく宝石に関わるお話です。
(前略)雨の向むこうにはお日さまが、うすい緑色みどりいろのくまを取とって、まっ白に光っていましたが、そのこちらで宝石の雨はあらゆる小さな虹にじをあげました。金剛石がはげしくぶっつかり合っては青い燐光を起おこしました。その宝石の雨は、草に落おちてカチンカチンと鳴りました。それは鳴るはずだったのです。りんどうの花は刻きざまれた天河石(アマゾンストン)と、打うち劈くだかれた天河石(アマゾンストン)で組み上がり、その葉はなめらかな硅孔雀石(クリソコラ)でできていました。黄色な草穂はかがやく猫睛石(キャッツアイ)、いちめんのうめばちそうの花びらはかすかな虹を含ふくむ乳色の蛋白石(オパール)とうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶(アメシスト)の美しいさきを持もっていました。そしてそれらの中でいちばん立派なのは小さな野ばらの木でした。野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかった霰石(アラゴナイト)でみがきあげられ、その実みはまっかなルビーでした。(後略)
主人公の王子と大臣の息子の二人が虹の足元にあるルビーの絵の具皿を求めて旅する話の一節です。虹の足元にある丘にたどり着いた二人が見た、全ての植物が宝石で出来ている様が、賢治ならではの表現になっていますが、お天気雨を受けて光り輝くお花畑を形容したようにも思えます。
宮澤賢治 虹の絵の具皿(十力の金剛石)