チーゼルと幻聴
チーゼルと幻聴
どこからかチーゼルが刺し
光パラフヰンの蒼いもや
わをかく わを描く からす
烏の軋り……からす器械……
(これはかはりますか)
(かはります)
(これはかはりますか)
(かはります)
(これはどうですか)
(かはりません)
(そんなら おい ここに
雲の棘をもつて来い はやく)
(いゝえ かはります かはります)
………………………刺し
光パラフヰンの蒼いもや
わをかく わを描く からす
からすの軋り……からす機関
賢治の詩集「春と修羅」にある「陽ざしとかれくさ」は三つのパートからなる詩です。書き出しの「どこからか」から「からす機械... ...」の前半部分(これはかはりますか)から(いゝえ かはります かはります)までの中盤部分
そして、「......刺し」から「からす機関」の後半部分です。刊行後の推敲でこの前半と後半部分が削除され、「幻聴」と改題された作品です。
枯草の上に寝転んで、まどろんでいると
枯草に紛れたチーゼルが、ちくりと背中を刺し
鳥の囀りが、カラスの鳴き声が機械のように
繰り返し聞こえてくる。
遠のく意識の中で、それらが一体化し
誰かの囁きが聞こえてくる(これはかはりますか)(これはかはりますか)
前半と後半は幻聴を聴くにいたる前の情景描写という意味以外に
チーゼル、パラフヰンの外来語を使う事により、この詩にモダンな響きを
与えている効果を考えると、削除するには惜しいような気がします。
チーゼルは花穂の周りにトゲがびっしりと生え、その穂先をラシャ(毛織物)
を起毛する為に使ったことから別名ラシャカキグザとも呼ばれています。
マツムシソウ科ナベナ属の多年草です。ヨーロッパ原産で日本へは明治時代に渡来しました。
写真:wikipedia~Dipsacus fullonum