ダァリヤの美
ダァリヤの美
宮澤賢治自身が「花鳥童話」と呼んだ作品群の中に、「まなづるとダァリヤ」という作品があります。
くだものの畑の丘のいただきに、ひまはりぐらゐせいの高い、黄色なダァリヤの花が二本と、まだたけ高く、赤い大きな花をつけた一本のダァリヤの花がありました。この赤いダァリヤは花の女王にならうと思ってゐました。(中略)やがて太陽は落ち、黄水晶の薄明穹も沈み、星が光そめ、空は青黝い淵になりました。「ピートリリ、ピートリリ。」と鳴いて、その星あかりの下を、まなづるの黒影がかけて行きました。
「まなづるさん。あたしずゐぶんきれいでせう。」赤いダァリヤが云ひました。
「あヽきれいだよ。赤くってねえ。」
鳥は向ふの沼の方のくらやみに消えながらそこにつヽましく白く咲いてゐた一本の白いダァリヤに声ひくく叫びました。「今ばんは。」白いダァリヤはつヽましくわらってゐました。
花の女王になることを夢見る赤いダリアとその赤いダリヤをほめそやす黄色いダリア、そしてひっそりとつましく咲く白いダリアを対置させて「飽くなき欲望の代償」や「美とは何か」を問うた物語です。
メキシコ原産のダリア(英語: dahlia、学名:Dahlia)は、キク科ダリア属の多年生草本植物で、1842年(天保13年)にオランダから長崎に持ち込まれたのが、日本への最初の到来となったとされています。夏から秋にかけて花を咲かすダリアは、原産地のメキシコが高原であるため、暑さに弱く、日本では東北地方や北海道など高冷地の方が色鮮やかな花が咲きます。
物語の中では「花の女王」にならなければ気が済まない、傲慢とも思える赤いダリアの悲劇的な結末とその意外な理由が語られます。賢治の愛した岩手の土地でもきっと華やかなダリアが咲いていたことでしょう。賢治が愛した花のひとつです。