2020年タイトル花
2020年タイトル花
12月のタイトル花
ラン・バンダ
この作品はもうかれこれ20年以上前の作品です。
私がまだ佐藤廣喜氏のもとでボタニカルアートを学んでいた頃のものです。
当時はまだ、会社員をしながらボタニカルアートの勉強をしていました。
そんなこともあり、すぐ状態の悪くなってしまう花を描き事が出来ませんでした。
そして冬になると描きたい......というよりも、描く事の可能な植物の選択肢はぐっと狭くなっていました。そんな時、いつも私の作画意欲を高めてくれたのは蘭の花達でした。
今は洋蘭はさほど高価ではありませんが、当時は珍しい蘭を入手しようとすると、結構な出費になりました。
しかしどうしても描きたくて入手したのがこの「バンダ」だったように思います。美しい紫色の花を咲かせ、花序全体は大変大きく。私の頭程の大きさがありました。
今でこそ私の作品の代名詞になった感がある「青紫色」は考えてみるとこのバンダがスタートだったのかもしれません。
今年は本当にいろんなことがありました。最大の注意を払いながら、お教室に戻ってきて下さった皆様、そしてボタニカルアート作家としての私にご協力くださっている方々へ、本当にありがとうございました。感謝申し上げます。
そして来年も前向きに楽しく意欲的に作品を描きたいと思います。
至らないことばかりの私ではありますが、応援のほどよろしくお願い申し上げます。
画:吉田 桂子 ラン・バンダ
文:吉田 桂子
11月のタイトル花
このつるバラは20年以上前に私の手元にやってきました。
それはまだ私が佐藤廣喜先生の元で植物画を学んでいた頃のことです。
同門下の友人と、今はもう無くなってしまいましたが堂ヶ島の洋蘭センターの研究温室で絵を描かせていただき、友人のオススメのペンションに宿泊しました。そのペンションの庭に大きなつるバラの株がありましたが、ランを描きに行っていましたので、当然その時期にはバラは咲いていません。
しかしそこには美しく可愛らしい実がたわわに実っており、ご主人に伺うと快く実を分けて下さいました。その時にはあまりにも可愛らしかったので描く気はなく、しばらく飾って楽しもうと思っておりました。
帰宅後、花器に活けて長く楽しんでいると葉の付け根から新芽が伸びだしました。あまりに力強いので「ひょっとすると...!?」と思い、挿し木をしてみることに......そして今
我が家にはまだそのつるバラがあります。2度の引っ越しと数回の植え替えにも耐え毎年花を咲かせてくれます。
昨年の秋に「ここが最後に場所だよ」と庭の一番南側の良い所に移植して、アーチも設置しました。なのに今年は暑さのせいか、近くに生えている山芋のつるにからまれたせいなのか、あまり花は咲きませんでした。
秋の剪定時期を迎えました。来年花が咲くようにお手入れをしっかりして、肥をたっぷりあげないといけません。
画:吉田 桂子 つるバラの花と実
文:吉田 桂子
10月のタイトル花
タッカ・シャントリエ
この植物に出合ったのは今から15年以上も前の事です。
当時はまだ都内に住んでおりました。自宅から近くにあるホームセンターによく植物を探しに行きました。仕入れが良いのか時折珍しい植物が安価で入荷することがあるので、時間が空くとのぞきに行くようにしていました。
そしてそんなある日のこと、大変珍しい植物に出合ったのです。
鉢には「タッカ・シャントリエ」と書いてありました。まさに一目惚れとでも言いますか......即買いをして自宅に帰りました。鉢を大切そうに抱えて歩いていると私の横で見知らぬ車がスーっと止まりました。助手席のウインドウがスーッと下がりました。助手席に座っていた見知らぬ女性が顔を出すと「その植物は何ていう植物ですか?」と話しかけてきました。きっとその方も私が抱えていたタッカに一目惚れしたに違いありません。
それから数年後、毎年秋に行われている、日本ボタニカルアート展にタッカが飾られていました。会員の一人へのプレゼントでしたが、当然会場の話題の的となっていました。私が描いた個体よりもより黒く「ブラックキャット」と名前がついていました。確かに!長い長いひげをもった黒猫の様です。
タッカ・シャントリエはタシロのイモ科の植物でバットフラワーとかデビルフラワーとか言われている様です。かわいそうな名前の様な気もしますが、人を引き付ける魔力的な魅力のせいかもしれません。
でも私は「ブラックキャット」の方が可愛いから好きです。そしてふと思ったのですが、黒い猫は魔女の使いともいいます......やはり魔力とは切り離す事は出来ないようです。
画:吉田 桂子 タッカ・シャントリエ
文:吉田 桂子
9月のタイトル花
ナデシコ達
カワラナデシコ、エゾカワラナデシコ、タカネナデシコetc
私のフィールド礼文島にも沢山のナデシコが咲きます。ナデシコは交雑が激しく、花色も豊富で礼文島の林道を歩いていると、淡いピンクや濃いピンクはたまた2色のボカシ染めの様な美しい花を咲かせる個体もあったりします。自然とは本当に不思議なものですね。
さてボタニカルアートを描く方にとってナデシコの花の切れ込みはとても難しいのではないでしょうか?ここでデッサンをする時の吉田流のコツをご紹介しましょう。
葉にも共通する事なのですが、花や葉の切れ込みのことを図鑑では、裂片とか浅裂とか「裂」の文字を良く使います。デッサンするときもまずこの「裂」という意味を文字通りに受け止めて、「裂けている」と考えて描きましょう。出っ張っているわけではありません。
そして大きな裂け目から描きます。それぞれの分割比率を正確に描きながら、その間にある小さな「裂」を更に分割していくのです。
デッサンは「足し算」ではなく「割り算で描く」が吉田流のデッサンの考え方です。
画:吉田 桂子 ナデシコ
文:吉田 桂子
8月のタイトル花
宵闇に薫る
ある夏の夜、寝つけずに目を覚ますとカトレアの強い香りに気が付いたことがあります。夜に香りを出すなんてミステリアスですよね。
この作品の蘭はリンコレリア属のディグビアナです。レースの様に細かく切れ込みの入った唇弁は大変美しく夜に咲く月下美人やカラスウリの花を彷彿とさせます。なのでどうしても月と一緒に描いてみたくなってこんな構図の作品になりました。
もともと私の作風は大先輩の太田洋愛さんや私の師匠の佐藤廣喜先生の作品のように明るい自然光の作品ではありません。どこか月下の様な暗がりの明るさ、夜の明るさの様な作品なのでこの構図と題材は私に似合うテーマだったのかもしれません。
話は変わりますが、私の名前に使われている「桂」という文字は、月との繋がりの多い文字です。月には桂(かつら)と言う樹木が生えているという伝説があり、桂男(かつらおとこ)は月に住む伝説上の人物で、美男子だったとも言われています。
私が生まれた7月の守護惑星は月とも言われていて、何か月との由縁で生きてきた気がしてしまいます。
私の父は生前、竹を大変愛していました。
まさか......私の前世は......なんて夜空の月を見上げてしまいます。
画:吉田 桂子 ディグビアナ「宵闇に薫る」
文:吉田 桂子
7月のタイトル花
ペチュニア「天の川」
7月に入ると、空を見上げる事が多くなります。
もちろん「七夕」です。1月1日、3月3日、5月5日、そして7月7日。日本の暦の節句は四季を感じる大切なイベントでもあります。その中でも七夕は特別にロマンチックな節句です。今年生えたばかりの笹を飾り、夜空にそして星に願いをかける。
7月生まれの私にとって七夕と聞いただけで何か特別な想いが心を覆い尽くします。それが何なのか?いまだにわからないのですが......
さて、この作品は「天の川」と書いてありますが、ペチュニアの品種名ではありません。展覧会でも質問を多く受けるのですが、私の作品の場合「 」かぎかっこがついている作品名は、普通の絵画と同じく作品の題名としてつけています。
見ての通りの少しベタな作品名ですが、5数性のペチュニアを色々描いていくうちに、天の川で輝く星の様に見えてきました。最近のペチュニアは、色や形が豊富でボタニカルアート初心者から上級者まで描き楽しめる品種がたくさんあります。まさに大地に輝く星です。
今年の天の星はどうでしょうか......?
織姫と彦星は会う事ができるでしょうか?
仮に雲で空が被われても、私たちには見えないだけで雲の上では再開しているに違いありません。
画:吉田 桂子 ペチュニア「天の川」
文:吉田 桂子
6月のタイトル花
バラ アンジェラ
バラ・アンジェラはつる性のクライミングローズ等と言われラティスやアーチに仕立てる事が多いバラです。
我が家の庭にもこのアンジェラがあります。
花弁の外側は濃いピンク色で内側は白に近いピンクです。
私はこのコントラストのある色相が大好きです。庭に定植した時の計画では
「ゴージャスなクラミングローズ!!」みたいな感じになる予定でした。
しかし......忙しさを言い訳に自由にさせていると大変な事になってしましました。
アンジェラは病気にの強く、初心者でも水やりさえしていれば枯らしてしまうことはほとんどありません。しかし、そのかわり放っておくと太いシュートがあっちこっちへ伸びて暴れまわるのです。まさしく......昨年まで我が家のアンジェラは反抗期でした。なので昨年の秋頃から強剪定をしはじめ、今年は木立ち性のバラの仕立てにしました。
バラほど手入れに応えてくれる植物はありません。我が家のアンジー(私は勝手にこう呼んでいます)は今年満開です。
画:吉田 桂子 「バラ アンジェラ」
文:吉田 桂子
5月のタイトル花
バラ フェリシテ・パルマンティエ
オールドローズが好き!ドゥーテのボタニカルアートが好き!という方なら必ずこの「バラ・フェリシテ・バルマンティエ」は大好き!と言っていただけるのではないでしょうか?
シャポードゥ・ナポレオンやロザ・ガリカと共通の魅力がある気がするのは私だけではないはずです。少し縮れた様な表面に硬めの産毛を生やしている葉やまるでバレリーナのチュチュの様に薄くてぎっしりとつまった花弁。ヨーロッパの美しいアンティークのレースやジュエリーを眺めている様な気持ちにさせてくれます。
この作品を描いたころはまだバラ栽培初心者でした。沢山のオールドローズを新しい庭に定着させられず、今も悔やまれます。作品として残せたことがせめてもの慰めです。しかし......そうでした、まだ途中のまま作品がある事を思い出しました。
チャインナローズ、天の川、ファインブリアータ、ヘルシェーレン、ロサ・ガリカ・ベリシコロールetc......またこれから少しずつ苗木を集めて花を咲かせてくれた作品を仕上げてゆきたいと思います。
画:吉田 桂子 「バラ フェリシテ・パルマンティエ」
文:吉田 桂子
4月のタイトル花
花屋のスミレ
この作品は「庭のスミレ」と言う作品と共に連作として描いた作品です。
花屋で買ったスミレなのですが、スミレはどうしてこんなに可憐で野趣にあふれているのでしょう。一応このスミレ達には和名がついて売られていましたが、私は少し疑っています。スミレは交雑が激しく同定が難しいとよく耳にするからです。でも原種でも交雑種でも何でも構わないではありませんか!だってこんなに可愛いのですから......
話は変わって、今年の庭のスミレはと言うと......そういえば今年はまだヒゴスミレも、タチツボスミレも、鳥足スミレもまだ見かけていません。
道端では帰化系のスミレが花盛りを迎えているのに......庭をほじくり返して地割を変えたのがいけなかったのでしょうか......彼らの顔を見るまでは心配です。無くなってしまったらどうしよう......っと。ウッドデッキに置いてある大きな鉢にこんもりとスミレの葉が......そして小さな大量の双葉が......
おそらくヴィオラ・ソロリアです。こんなところに植えただろうか......?と記憶をたどり......ソロリアの別名アメリカスミレサイシンと言う名と共に思い出しました。以前、ボタニカルアートのお教室の生徒さんに頂いたスミレでした。でも......庭に植えたはず......きっとこれは我が家の庭でせっせと働くアリさんからのプレゼントなのでしょう。こんどはこの花を描いてみたいと思います。花一輪を小さいな額に入れて。
庭のスミレ
画:吉田 桂子 「花屋のスミレ」「庭のスミレ」
文:吉田 桂子
3月のタイトル花
水仙ティタティタ(テータテート)
3月の我が家の庭は一番美しい季節を迎えます。
今年は1月から気温の乱高下があったせいなのか一際にぎやかです。
一時の春を待ちわびていたかの様に様々な花が一気に咲き乱れました。
まるで「私を描いて」と私に語りかけている様です。「忙しさを理由にしてはいけません」と自然からお叱りを受けている様な気になります。
さあ白い紙を用意してイーゼルの前に座りましょう。私も花々と共に一時の春をおしみそして楽しみたいと思います。
ティタティタ(テ・タテート)は小型の水仙で最近は鉢植え水仙の代表品種となりました。育成環境によって徒長することもあるようですが大型になりにくいので現代の都会暮らしにはあっているようです。学名のカタカナ表記に際しては色々な表記があるようですが私は昔風のティタティタが大好きです。
画:吉田 桂子 水仙ティタティタ
文:吉田 桂子
2月のタイトル花
早い春、我が家の庭には春を装うべく少しずつ華やいでゆきます。
今年は暖冬のはずなのにヘレボス・ニゲルはやっと咲き始めました。早咲きのこの品種こそが本当のクリスマスローズなのにこれではレンテンローズに追いつかれてしまいそうです。
ここで「レンテンローズ?」と思ったかたはいますか?実は現在日本の花屋さんでクリスマスローズと言って売られている花はほとんどが遅咲きのヘレボス・オリエンタリス・ハイブリッダの英語名レンテンローズなのです。
これは日本人の宗教観にもかかわりがあるのかも知れません。レンテンとは復活祭を意味する言葉でその時期に咲くヘレボスの事をレンテンローズと呼ぶのですが、仏教徒が多い日本においてはクリスマスの言葉の方が馴染み深いため流通名として全てをクリスマスローズと呼ぶようになってしまったようです。
庭にある日本スイセンのつぼみはまだ固く、スノードロップは芽を出しているのやら...まだ確認できていません。先日、アトリエからぼんやり庭を眺めていると枯れた三つ葉アケビのツルの上で二羽のヒヨドリがいつまでも佇んでいました。ツガイでしょうか?何を語るでもなく少しだけ離れて静かに羽を休めていました。ゆったりとおだやかに時が流れてゆくのが分かりました。まるで春を待つかのように...
ブーケ「早春」この作品は春を待つ静かな、そして少しだけワクワクする気持ちで描いた作品です。「春近し」そんな季語を思い浮かべる作品です。
画:吉田 桂子 ブーケ「早春」
文:吉田 桂子
1月のタイトル花
この花をアイスランドポピーと呼ぶようになったのはごく最近のことです。
その前までは「ポピーと言えばこのポピーに決まっているでしょ!!」って感じでした。大阪で行われた花博以来青いケシが有名になり、ポピーの類は色々なものが紹介されています。そういったこともありわざわざアイスランドポピーと呼ぶようにしています。
昔から今の時期になると10本ほどのアイスランドポピーの花束が安く買えました。水上げも良く花持ちも良いので一束あると室内が華やぎます。
今から買ってみようと言う方はぜひ蕾ばかりの花束を購入して下さい。普通の花束を購入する際、あまり蕾の固い花を購入してしまうと花瓶の水だけでは花が咲かないものですが、このアイスランドポピーは違います。
水に活けていると花を守っている苞にピリットひびが入り、隙間からオレンジ色が見えだします。すると「カサッ」と言う音と共に苞が割れ落ちて、中からくしゅっと丸めた羽衣紙の様な花弁が出てきます。そしてまるでビデオを逆再生しているかの様にシワが伸びて、中から美しい雄蕊が顔を出すのです。
自由曲線で構成された細長い茎に不釣り合いな程の大きな花。このアンバランスが私は大好きです。
画:アイスランドポピー 吉田桂子
文:吉田桂子