箱根探美行
箱根探美行
箱根湿性花園
尾瀬沼、五色沼など高原と沼地は切っても切れない仲です。
山々の水がしみ出し沼や湖をなす地形は日本の高原ではよく見られます。
箱根湿性花園は仙石原高原の中に位置し、自然の湿原を活かして作られています。
湿性花園の名のとおり、湿性植物が多く見られますが、その他にも野草が沢山見られます。湿原の回復を行っているエリアもあり、化環境保全のあり方も改めて考えさせられますし、野草図鑑に掲載されるような基本的な植物が多く植えられているので、子供の植物観察や夏休みの自由研究などに訪れても良い大変よく考えられた植物園と言えます。
園内は
1)落葉広葉樹林の植物
2)ススキ草原の植物
3)低層湿原の植物
4)ヌマガヤ草原の植物
5)高山の植物
6)高層湿原の植物
7)仙石原湿原の植物
8)湿性林の植物
以上8つの植生環境に分かれて植えられており、木道に沿って順路を進めば全て観察する事が出来ます。木道も広くとってあるので簡単にすれ違いが出来ますので座ってスケッチぐらいは出来そうです。(左図は箱根湿生花園パンフレットより転載)
入場券には、園内にある喫茶やまゆりで販売されているソフトクリームの割引券がついていました。テラス席には蝶の大好きなブッドレアが植えられているので運が良ければ大きなカラスアゲハのダンスを見ることが出来ます。
箱根町立箱根湿生花園のウェブサイトはこちら
箱根湿生花園の様子は動画でご覧いただけます。
箱根ラリック美術館
ずっと以前から行ってみたかった美術館です。
ラリックと言えばオパール・ガラス....そう思っていたのは私だけだったのかもしれません。
美術館の入り口はまるで高級リゾートホテルのようなムードのたたずまいです。
湿性花園とセットで行かれるかたは、必ずこちらでセットチケットを購入しましょう。\500割引になります。
(大人\1500/大学・高校生・65歳以上\1300/小中学生\800)
1室目はラリックのアトリエです。
実物のアトリエの扉などの所縁の品が展示されています。
そこから香水瓶のゾーンへ。コティ社の依頼によって製作された数々の香水瓶は量産品とは思えないほど可愛く、美しく...
そして、今回の特別企画展示「日曜日の庭」へと続きます。
(2013.6.1~12.1まで)
ともかくこの展示の素晴らしかったこと!!
ここに展示されている作品は、オパールガラスを多用したアール・デコ調以前アール・ヌーヴォー様式の宝飾デザイナー時代の作品が、愛する妻のために別荘を購入したパリ郊外の地クレールフォンテーヌの写真や詩人ラマルティーヌの詩とともに展示され、作品の世界観を感じられるよう工夫されています。金とガラスとエナメルを使い、まるで小さな彫刻作品を思わせるその美しさは、クレールフォンテーヌの豊かな自然に創作意欲をかきたてられた証とでもいえるほど、その造形にこだわった写実性がデザインと見事に調和しています。
2室は庭の見える、自然光あふれる空間が広がっています。
それまでの暗い照明の部屋を抜けて一気に明るい気持ちになります。
この部屋には水まわりの設備があったのできっとレセプションルームとしても使われるのでしょう。
ガラス張りの部屋の正面にはモネの庭を模したつくりで大変計算された庭であることをうかがわせます。写真はラリック美術館チラシより転載
そんな中、1点のブロンズ像に足を止めて私は衝撃を受けました。
タイトルに書かれた作者名にはサラ・ベルナールの文字が...「え?何で...」意味が分からず
サラの年表に目をうつすとそこには
29才から趣味の絵を描き始める。とあり
ラリックが舞台用アクセサリーのデザイナーとして、サラが演じる舞台
「ジスモンダ」に参加。の「ジスモンダ」で2度びっくりでした。
ジスモンダといえばアルフォンス・ミュシャが初めてサラのためにポスターを描き、その後数々の美しいポスターを描くことになった記念碑的作品として有名です。
舞台役者を目指して演劇の励んだ少女時代、ミュシャに憧れて入学した美大生の頃...
それはまるで初恋の人に出会ったような不思議な感覚でした。
サラに導かれるようにここへ来てしまったのか...そんな気さえしました。
感動覚めやらぬ心のまま、2階の展示室へ向かうとそこはアール・デコの時代の作品群が展示されていて、比較的量産されたガラス器のゾーンに変わっていました。
ラリックはヌーヴォーとデコの2つの時代を生き、アーティストとクラフトマンというふたつの顔を持つクリエーターであることをこうやって一連の作品を順番に見ていくことによりその思想の変化の流れを感じ取ることが出来ました。
その思想の出発点は、イギリスはロンドン郊外にある「赤い家=Red House」と呼ばれる建築物からはじまったと言われている「アーツ・アンド・クラフツ運動」であるような気がしてなりません。今日は日用品であっても美しくデザインされたものが沢山ありますが、ラリックが産まれた頃、イギリスでは産業革命の成果により工芸の分野は工場で大量生産されたものが市場にあふれるようになり、かつての職人は単なる労働者の一員となり造形の喜びや手仕事の美しさも失われてしまい、美術品とは相いれないものになっていました。しかし、そういった世の中の流れにあらがうように登場したのが詩人でありデザイナーであるウイリアム・モリスです。彼は中世に憧れ、生活と芸術を一致させようとする思想であるアーツ・アンド・クラフツを実践しました。
ラリックはそんな時代に産まれ、生き、そういった影響をきっと受け、自らの作品を前期の装飾的志向から後期の美を備えた実用品へとデフォルメさせながら、香水瓶や花器、インテリア用品等生活雑貨の中に反映させ多くの人々に自分の美意識を共有してもらうことを実践したのだと思います。
日本においても「美術工芸」という言葉が使われるようになって久しいですが
ボタニカル・アートもある意味、現代のアーツ・アンド・クラフツ運動の典型的な存在のような気がします。もともとは写真がなかった時代に記録的な意味で始まった博物画の一種である植物画がいつしか印刷技術の向上と共に芸術の域まで高められてきました。
そしてカルチャースクールや展覧会などで認知度が上がり、単なる絵画から離れインテリアやファッショングッズなどで日常的に見られるようにまでなりました。
ラリックがたどった道を自分も歩いているのだと。
そして、その大きな背中に届かなくても
自分なりに...そしてもっと多角的に
ボタニカル・アートを楽しむための
前向きなエネルギーをいただきました。
ものを創り出す行為は大変孤独な作業です。
時としてくじけたり、目標がみえなくなってしまったり、自分の未熟な技術に打ちのめされたり
する事でしょう。そんなとき、素晴らしい先人の作品や心揺さぶられる自然の造形に触れる事により
私たちは大きな力を得ることができます。
そんな旅がここ箱根にあるのだと改めて思いました。
ぜひ皆さんも足を運ばれてはいかがでしょうか?
吉田桂子
箱根ラリック美術館のウェブサイトはこちら
交・宿・食
箱根湿生花園とラリック美術館へのアクセス
小田急ロマンスカー・電車・バスご利用の場合
● 箱根登山鉄道「箱根湯本駅」より、箱根登山バス「湖尻・桃源台」行きにて
約30分「仙石案内所前」
● 新幹線・JR「小田原駅」より、箱根登山バス「湖尻・桃源台」行きにて約45分「仙石案内所前」
● 小田急箱根高速バス「新宿駅」より約120分「箱根仙石案内所」
● 小田急箱根高速バス 羽田線
「羽田空港」→「横浜駅」→「御殿場駅」→「箱根仙石案内所」
「羽田空港」よりおよそ150~165分。「箱根仙石案内所」
お車をご利用の場合
● 東名御殿場I.C.より乙女峠経由、仙石原まで約20分
ラリック美術館は仙石案内所より下車すぐ。
湿生花園は仙石案内所より徒歩約10分。
詳しくはそれぞれのウェブサイトにてご確認下さい。
箱根の宿
箱根は古くから東海道の要衝とされ、保養地や観光地として栄えてきました。
ゆえに老舗の宿からリゾートホテル、ペンションなど、たくさんの宿泊施設がありますのでご予算や計画に合わせて選ばれると良いでしょう。
箱根町観光協会公式サイトはこちら
箱根の食
ラリック美術館と湿生花園の間を走る通り沿いには和・洋・中華・喫茶甘味処と何件かお店がありますが、それぞれが離れているので徒歩ですと移動が大変かもしれません。詳細は箱根町観光協会公式サイトで検索なさって下さい。美術館内のレストランやホテルのレストランをご利用するのも良いかもしれません。