第39回ーハクサンシャジンを描くーデッサン編
第39回ーハクサンシャジンを描くーデッサン編
今回はボタニカルアーティスト9月(秋号)の表紙ーハクサンシャジンの描き方をご紹介します。まずこの植物には和名が二つあります。一般的にはハクサンシャジンと呼ばれていますが、私はもう一つの和名であるタカネツリガネニンジンの方がしっくりします。私のフィールドワークの地、礼文島ではこのハクサンシャジンの他にもツリガネニンジンが生育していますが、ハクサンシャジンはこのツリガネニンジンの高山型の植物を指すため、タカネツリガネニンジンの方が和名としてはしっくりする気がするのです。ただ私が命名者ではないのであくまでも私見ではありますが....
さて描き方もご紹介するわけですが、今回はデッサンにスポットを強めに当ててみようと思います。2003年イギリスで礼文島の植物を発表した折にも、私の作品の下草の描き方について多くの方からご質問を頂きました。ほとんどの方の質問の内容は下草の描き方ーとりわけ鉛筆デッサンをどの程度まで描き込みのか?と言う事でした。私の場合は基本的には形ある物はデッサンで全て描くので、つまり全ての下草は彩色の前に描いてしまうのです。
主体と前景
この作品はまず、主体となるハクサンシャジンだけが描かれていました。
これは2007年の秋に礼文島で描いたデッサンです。本番用の紙にその場で描いたものでした。時間に余裕があれば下草も現地で描きたかったのですが、島での縦走の途中でしたのでハクサンシャジンのみ描き、下草はやむなく資料写真とスケッチを組み合わせて描く事にしました。
前景にトウゲブキの幼葉を配して、構図の奥行きを出すことに決めました。
デッサンの基本になるべく忠実に手前にある物体から奥に向かって描き進めます。
デッサンの最中も陰影や配色も考え、作品が仕上がった時をイメージして描いてゆきます。このあたりで準主役の植物を決めます。
主だった植物は決まったので下草や石ころなどを更に細かく描きます。
そしてここからが吉田桂子流の裏ワザです。
私にボタニカルアートの師である、佐藤廣喜先生は鉛筆で影を付ける事はされませんでした。白い花であっても黒い絵の具で影を付ける様にと習いました。ただ、私は画材としての鉛筆が大好きで「鉛筆=下書きの道具、もしくは描線のみを描く道具」という考え方にはしっくりきませんでした。
図鑑用や学術性を強く要求される時には使いませんが、私の研究テーマ
「礼文島の植物」を描く時は「鉛筆と水彩絵の具で描く」と決めています。
ですから、下草には鉛筆で陰影をつけ、絵の仕上がりが彩色前に想像できるように描いてしまいます。
最後に
デッサンの途中をお見せすることはあまりありませんが、今回は特別にご紹介してみました。皆さんの参考になれば幸いです。
さて彩色の話はまた来月にご紹介できればと思いますので、楽しみにお待ちください。