マルメロ香り秋深く
マルメロ香り秋深く
マルメロ (marmelo、漢名: 榲桲、学名: Cydonia oblonga) はバラ科マルメロ属の1種の落葉高木です。別名セイヨウカリン、カリンとも呼ばれます。秋に黄熟する果実は芳香がありますが、生食は出来ません。
萱の穂は赤くならび
雲はカシユガル産の苹果の果肉よりもつめたい
鳥は一ぺんに飛びあがつて
ラツグの音譜をばら撒きだ
古枕木を灼いてこさへた
黒い保線小屋の秋の中では
四面体聚形しゆうけいの一人の工夫が
米国風のブリキの缶で
たしかメリケン粉を捏こねてゐる
鳥はまた一つまみ 空からばら撒かれ
一ぺんつめたい雲の下で展開し
こんどは巧に引力の法則をつかつて
遠いギリヤークの電線にあつまる
(中略)
水のそばでは堅い黄いろなまるめろが
枝も裂けるまで実つてゐる
(こんどばら撒いてしまつたら……
ふん ちやうど四十雀のやうに)
雲が縮れてぎらぎら光るとき
大きな帽子をかぶつて
野原をおほびらにあるけたら
おれはそのほかにもうなんにもいらない
火薬も燐も大きな紙幣もほしくない
「火薬も燐も」は権力や武力を表し、「紙幣」は財力を表しています。
鉄路が続き、電柱が立ち並ぶ澄んだ青空には、鳥たちが舞い、たわわになったマルメロ香る清涼な空気に包まれて歩く野原は解放感万点なはず。
もう何もいらない...
宮澤賢治 詩・春と修羅 火薬と紙幣
写真:wikipedia~マルメロ