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どんぐりの裁判

どんぐりの裁判

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ドングリ(団栗、英: acorn)とは、ブナ科の、特にカシ・ナラ・カシワなどコナラ属樹木の果実の総称です。宮澤賢治の童話、どんぐりと山猫はこんな出だしで始まります。

おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。
かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝

どんぐり達がその容姿を巡った争いに、判決を下せない裁判官である山猫から、助言役として招かれた少年のお話です。

空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。
「裁判ももう今日で三日目だぞ、いい加減になかなおりをしたらどうだ。」山ねこが、すこし心配そうに、それでもむりに威張いばって言いますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、なんといったって頭のとがってるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがっています。」
「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです。」
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」
「そうでないよ。わたしのほうがよほど大きいと、きのうも判事さんがおっしゃったじゃないか。」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」
「押おしっこのえらいひとだよ。押しっこをしてきめるんだよ。」もうみんな、がやがやがやがや言って、なにがなんだか、まるで蜂はちの巣すをつっついたようで、わけがわからなくなりました。そこでやまねこが叫びました。
「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」

(中略)

山猫が一郎にそっと申しました。
「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」
一郎はわらってこたえました。
「そんなら、こう言いわたしたらいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」
山猫やまねこはなるほどというふうにうなずいて、それからいかにも気取って、繻子しゅすのきものの胸えりを開いて、黄いろの陣羽織をちょっと出してどんぐりどもに申しわたしました。
「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」
どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、堅かたまってしまいました。

これも賢治の哲学ともいえる「デクノボーの精神」の表れでしょうか。
足元に数えきれないぐらい落ちているドングリ達の声が聞こえてきそうです。

宮澤賢治 童話・どんぐりと山猫
wikipedia~ドングリ

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