クリプトメリアギガンテア
2015.10.16
カテゴリ:イーハトーブの植物園
クリプトメリアギガンテア
十里にわたるこの沿線の
立派な華麗樹品評会(フアイントリーズシヨウ)である
けだしこの緑いろなる車室のなかは
殆んど秋の空気ばかりで
わたくしは声をあげてうたふこともできれば
ねころぶことも通路を行ったり来たりもできる
そらはいちめん
層巻雲のひかるカーテン
じつに壮麗な梢の列
また青々と華奢な梢が
つぎつぎ出没するのである
青すぎ青すぎ
クリプトメリアギガンテア
はんのきはんのき
アルヌスランダアギガンテア
楢はまさしく
・・・で
である
つぎがまもなく停車場ならば
これが最后の惑んで青いうろこ松
幹もいっぱい青い鱗で覆はれてゐる
またあたらしく帝王杉があらはれて
風がたちまち鷹を一ぴきこしらえあげる
クリプトメリアはスギの学名です。ギガンテアは大きなという意味ですから、大きな杉の木という意味になります。アルヌスはハンノキの学名。アルヌスランダアギガンテアはこちらも大きなハンノキという意味になります。どちらも賢治の造語ですが、ラテン語の用法を解する事が出来ればこの命名も全くの造語という訳でもないのではと納得してしまいます。賢治の目には車窓を流れる数々の樹木はまるで品評会の様に映ったのでしょう。
宮澤賢治 詩・華麗樹種品評会
写真:wikipedia~スギ