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ある英雄の死

ある英雄の死

イヌタデ

城のすすきの波の上には
伊太利亜製の空間がある
そこで烏の群が踊る
雲母のくもの幾きれ
(濠と橄欖(かんらん)天蚕絨(びらうど)、杉)
ぐみの木かそんなにひかつてゆするもの
七つの銀のすすきの穂
(お城の下の桐畑でも、ゆれてゐるゆれてゐる、桐が)
赤い蓼(たで)の花もうごく
すゞめ すゞめ
ゆつくり杉に飛んで稲にはいる
そこはどての陰で気流もないので
そんなにゆつくり飛べるのだ
(なんだか風と悲しさのために胸がつまる)
ひとの名前をなんべんも
風のなかで繰り返してさしつかえないか
(後略)

花巻城址の秋の風景を歌ったこの作品には賢治独特の空想と心象が表れています。澄んだ秋の青空にイタリアを連想していますが、タイトルにあるマサニエロはナポリの反乱で人民側の頭領に選ばれるたにもかかわらず、数日で暗殺されるという悲劇的な末路をたどる英雄で、オペラ作品「ポルティチの唖娘」に登場する人物です。日本では、1916年10月21日、浅草六区の帝国館を皮切りに全国で公開され、1922年には、パヴロワが来日したのを機に再上映されました。

病状が悪化する最愛の妹トシと悲劇の英雄を重ね合わせてのでしょうか、すすきを揺らし、タデをざわつかせる秋の風が、賢治の胸中をも掻き立てます。

宮澤賢治 詩・春と修羅 マサニエロ
写真:wikipedia~タデ

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