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サルスベリとハチドリ

サルスベリとハチドリ

サルスベリ

8月になると、方々でひときわ鮮やかな紅色の花をつけた木を目にするようになります。あるものは庭木に、またあるものは街路樹に、こんなに同じ木が植えられていたのかと驚くと同時に、その木の和名の由来にもなっている独特の木肌で、「サルスベリ」であることがすぐにわかります。しかし、木肌の主張よりも、鮮やかな紅色の花の方が存在感をより強く主張しているので、別名になっている百日紅の方がこの木には相応しい名のような気がします。

宮澤賢治の童話「黄いろのトマト」の中で、博物館に収められた、剥製の蜂雀(ハチドリ)が、少年に語るある哀しい兄弟のお話の一節にこうあります。「ペムペルとネリとはそれはほんとうにかあいいんだ。二人が青いガラスのうちの中に居て窓をすっかりしめてると二人は海の底に居るように見えた。そして二人の声は僕には聞こえやしないね。それは非常に厚いガラスなんだから。けれども二人が一つの大きな帳面をのぞきこんで一所に同じように口をあいたり少し閉じたりしているのを見るとあれは一緒に唱歌をうたっているのだということは誰だってすぐわかるだろう。僕はそのいろいろにうごく二人の小さいな口つきをじっと見ているのをたいへんすきでいつも庭のさるすべりの木に居たよ。」とあります。

サルスベリ(百日紅=ヒャクジツコウ、Lagerstroemia indica)は、ミソハギ科の落葉中高木で、中国南部原産です。しかし、属としてのサルスベリは熱帯、亜熱帯に分布することからハチドリとの出会いがあってもおかしくはありませんが、これは賢治による創作でしょう。紅色の百日紅の花から花へと蜜を求めて極彩色のハチドリが飛ぶ姿をイメージしていたかもしれません。

宮澤賢治 黄色のトマト

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