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時を刻む葉っぱの謎

時を刻む葉っぱの謎

日時計

朝晩の冷え込みも緩み、昼間は初夏の暖かさを思わせる陽気になってきました。
まさに「春眠暁を覚えず」の季節です。
あまりにも有名なこの一節は、唐代の詩人、孟浩然の詩「春暁」の一部で、全文を掲載すると、

春眠不覺暁 春眠暁を覚えず
處處聞啼鳥 処処啼鳥を聞く
夜来風雨聲 夜来風雨の声
花落知多少 花落ちること知るや多少

春は気持ちよいので日が昇ったのも知らずに眠っていた
目が覚めるとあちらこちらから鳥のさえずりが聞こえている。
ゆうべは風雨であったが、どれだけの花が落ちてしまったのであろうか

という意味だそうです。これは

「春は陽気が良いのでついつい寝坊してしまう」というように捉えていることが多いようですが、真意はそうではなく、

冬は夜明け頃の一番冷え込む時間帯に自然に目が覚めてしまったけれど、春になって暖かくなり冷え込みも緩んでくると、夜明けの寒さに目覚める事もなく眠ってしまう。目覚めて、気がつけば、鳥が鳴いている。昨夜の風雨でどれだけ花が散ってしまったことだろう。
そんな、春の訪れの感慨を詠ったもので、決して「春は眠い季節」を詠った詩ではないのだそうです。

ただ、あまりに寝心地が良く、なかなか布団やベッドから出られないのは今も昔も変わらないのではないでしょうか。それに冬の夜明けは遅く南関東ですと、だいたい1月1日で午前6:50分です。その後だんだんと月を追うごとに早くなり、2月1日で午前6:41分で9分、3月1日で午前6:12分で前月より29分早くなり、4月1日で午前5:28分と一気に44分も早くなります。そして5月1日は午前4時50分となり、さらに38分も早くなるので、太陽の光が人間の体内時計をリセットする役目だとすると、その急激な変化に体内時計の調整が追いつかないため、やはり春は眠たい季節と言えるのではと思います。このようなことから、人間は夜の長さを正確に体内時計で計る事は難しいですが、植物はかなり正確に夜の長さを計る事ができます。そしてそれは植物にとって子孫繁栄のためにぜひとも欠かせない能力なのです。

葉

植物にとっての子孫繁栄の手段は「花を咲かせ、実を結び、種を作る事」です。この時、種は「苦手な季節や環境をやり過ごす」ための状態ですから、夏の暑さに弱い植物は暑くなる前に種子を作り、冬の寒さに弱い植物は寒くなる前に種子を作ります。と、いう事は、気温を知らなければならないという事になりますが、気温は夜の長さの約2か月遅れでそのピークが訪れます。例えば6月の夏至の2か月後の8月にもっとも暑くなり、冬至の12月の2か月後の2月にもっとも寒くなります。ですから植物たちは、夜の長さを計っていれば、暑さ寒さの訪れを約2か月前に知ることが出来るので、その間を利用してツボミを作り、花を咲かせ、タネを作ることが出来るのです。
これが春と秋に花を咲かせる植物が多い理由になります。

植物は昼と夜の長さに反応してツボミが出来て花が咲く事に着目して分類すると、昼が短く夜が長くなるとツボミを作るアサガオ、キク、シソ、コスコスなどの「短日植物」、昼が長く夜が短くなるとツボミを作るアブラナ、カーネーション、ホウレンソウなどの「長日植物」そして夜の長さに反応せず、ある一定の期間発育を続け、葉っぱの数がある枚数になったり、ある年齢に達するとツボミを作る「中性植物」の3つのタイプに分かれます。ではこれらの夜の長さに反応する植物は、どこで夜の長さをはかっているのでしょうか。

1937年に当時のソ連の科学者チャイラヒアンにより日長を感知するのは「葉」であることが発見され、葉が感じた日長の情報を芽に伝えるホルモン様物質があると考えフロリゲン(花性ホルモン)説を提唱されました。もしも私たちがフロリゲンを手に入れることができれば好きな時期に芽に与え、ツボミをつくらせ花を咲かせることができます。花の栽培だけではなく、タネや果実を収穫する作物の栽培から収穫までの期間を自由に調節でき、効率的に作物をつくることができるようになるのです。
しかし、チャイラヒアンがこの仮説を提唱して以来なかなか発見できなかったことから、幻の植物ホルモンと呼ばれてきましたが、2007年,フロリゲンの分子実体はHd3a/FTとよばれるタンパク質であることが明らかにされ、さらに2011年,フロリゲンの受容体の同定,および,活性の本体となるタンパク質複合体の結晶構造が解明されました。また,フロリゲンは花だけでなくジャガイモの形成を決定づけるなど,驚くべき多機能性をもつことが明らかになってきており、わが国が世界をリードしてきたフロリゲン研究は植物科学のなかでも最も注目を浴びる研究分野の1つとなっているそうです。

参考資料:葉っぱのふしぎ 田中 修著
wikipedia~フロリゲン
花性ホルモン”フロリゲン”の構造と機能

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