ボタニカルアートを描く人のための専門情報サイト

葉よりも先に花を咲かせるソメイヨシノの謎

葉よりも先に花を咲かせるソメイヨシノの謎

ソメイヨシノ

花散らしの雨風にもマケズ、サクラも満開を迎え、この週末はお花見でどこもにぎわう事と思いますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?日本一のお花見の宴と言えば、かの関白秀吉公が文禄三年(1594年)2月27日、豊臣秀吉が、豊臣秀次・徳川家康・前田利家らとともに、奈良の吉野にて開催したものでしょう。2月27日といっても旧暦のことなので今でいえば4月の中頃でしょうか。吉野山はその裾野から頂上まで標高差が500mあるそうで、気温の高い山裾のサクラから順番に下千本、中千本、上千本、奥千本と開花がはじまるそうです。吉野のサクラは約30000本あるそうですから、さぞ壮観なことでしょう。
(写真はソメイヨシノ)
さてこの吉野のサクラ、そのほとんどがヤマザクラで、私たちが今日愛でる、ソメイヨシノではありません。ソメイヨシノは江戸の後期、現在の東京都豊島区駒込・巣鴨にあたる、当時植木の里と言われていた、染井村の職人たちによって「吉野桜」の名前で売り出されたもので、たいそう人気を博し、広められました。今でいえば産地偽装と言われかねないネーミングですが、現代ならずとも、そのルーツに疑いを持った人がいたそうです。その人は田中芳男という幕末から明治期に活躍した博物学者であり物産学者、農学者、園芸学者、錦鶏間祗候、男爵だった方で明治期に動物園、植物園を構想し上野で実現したことのみならず、分類階級の訳語として、classに「綱」、orderに「目」、familyに「科」、genusに「属」、speciesに「種」の訳を用いた、日本の博物学史上大変大きな功績を残された方です。

田中博士の指摘によってその後、さまざまな調査の結果、吉野桜として売られていたサクラは吉野桜の名にあたいせず、とされ、ソメイヨシノと命名され、東大教授松村任三博士によって,CerasusまたはPrunus yedoensis Matsumuraの学名が与えられました。

その後さまざまな調査や研究を経て「オオシマザクラとエドヒガンが交配して生まれた」と推論されるようになりました。その理由は、皆さんもご承知のとおり、ソメイヨシノは「多くの花を、葉が出るより先に咲かせる」というエドヒガンの性質と「上品な色の大きな花を咲かせる」というオオシマザクラの性質を併せ持っていたからです。これらの2種類を実際に人工的に交配すると、ソメイヨシノ良く似たサクラの木が生まれました。そのような経緯から「ソメイヨシノは、この2種類の交配で生まれた」という説が徐々に認められ、現在では染井村の植木職人の手によって交配されたというふうに考えられているそうです。

ヤマザクラ

では何故、このソメイヨシノは葉を出すよりも先に花を咲かせるのでしょう。
多くの植物は、葉が成長した後に花が咲きます。これは種や実を作るに必要な栄養を先に葉を繁らせて光合成をして栄養を蓄える必要があるからです。ウメ、モモ、コブシ、モクレン、ハナミズキなどもソメイヨシノと同じく葉よりも先に花を咲かせるますが、これは種から発芽したばかりの草花には到底できない芸当です。幹や根に十分栄養を蓄えている樹木だからこそ出来るのです。(写真はヤマザクラ)

しかし、葉よりも先に花を咲かせる事は植物にとってどのような利点があるのでしょうか?
葉が一枚もない枝に咲く花々は大変に目立ちます。我々がそれに目を奪われるのと同じく、昆虫や鳥たちにも見つけてもらいやすいく、その美しい花の色や香りで誘い、蜜を与えて花粉を媒介してもらうことができます。そして、花粉がうまく媒介されると、木に蓄えられていた栄養と、あとからはえた葉によってできた栄養によって、種や実がゆっくり成長することができるのです。

いっぽうヤマザクラは何故、花が咲くより先に葉が、または花と葉が同時に出るのでしょう。
これは、2種類ある芽の種類の性質によります。
芽にはツボミを包み込んだ芽と葉を包み込んだ芽の2種類がありますが、ヤマザクラでは葉を包み込んだ芽が、ツボミを包み込んだ芽よりも低い温度あるいは同じ温度で成長する性質を持っています。なので花が咲く前に、あるいは同時に葉が出るのです。逆にソメイヨシノはツボミを包み込んだ芽が葉を包み込んだ芽よりも低い温度で成長します。そのため葉が出ないうちに花が咲くのだそうです。

参考書籍:花のふしぎ100
参考サイト:wikipedia
      吉野の観光と見どころ
      
編集部記

コメント


認証コードを入力してください。

認証コード5700

コメントは管理者の承認後に表示されます。

powered by HAIK 7.3.7
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional