2018年タイトル花
2018年タイトル花
12月のタイトル花
カトレア
いつ頃だろうか?かなり遠い昔の事になります。
それはまだ、私の恩師である佐藤廣喜先生がご健在の頃です。私はまだ大手アパレルメーカーのデザイナーをしておりました。競争の激しい世界に心がついてゆけず植物の絵を描くことだけが私の心の支えとなっていました。
その頃は花期の短い植物はなかなか描く事が出来ず、ましてやフィールドで描くなんて夢のまた夢でした。そんな環境の中でいつも私の作画のモデルになってくれたのが蘭の花たちでした。
蘭の花はゆっくり咲いてそしてゆっくり散っていく種類が多く、そのコックリとした色合いの花は仕事をしていた為に夜しか絵を描く事ができない私にとって格好の題材でもあったのです。
若い頃はかなり記憶力に自信のあった私ですが、今となってはこの美しいカトレアにどこで出会ったのか思い出すことが出来ません。確か当時私はピンクの花を描くのが大の苦手でその克服のためにこの花を選んだような気がします。まるで苦しい思いを打ち消すかのように、無心に筆を動かせた当時の想いだけは何故か昨日の事のように思い起こすことができます。
一心不乱に絵を描く事....恒常化した画業の中で最近少し減っていないだろうか...昔の作品を見ると「ヘタ!!」と思って嫌になる事もあるけれど「あの頃のハートは素晴らしかった!!」と思う事もあります。
12月を迎えて...来年は今年よりももっといい作品を描きたい!!ハートのこもった作品を!!と思っております。
今年1年応援して下さった皆様、ありがとうございました。そして来年もまた頑張りたいと思っておりますのでどうぞよろしくお願い致します。
画:カトレア 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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11月のタイトル花
デンドロビウム・カスバートソニー
今からもう20年近く前のことです。んっ?いえ30年ほど前のことです。
私は動物の生態画を描きたいと思っていました。特に猫や犬などの身近な動物を描きたいと思っていました。当時はまだ一部上場のアパレル会社の企画部でデザイナーをしておりましたので、少し先の夢でもありました。
動物の行動学やナチュラルイラストレーションの書物を読んでみたりしながら、身近な植物を描き始めたのがボタニカルアートに入ったきっかけでした。
当時は年10数回を越える国内外の出張をこなしながら寝る時間を削ってボタニカルアートを描いていました。きっと若さがそれをさせてくれたのでしょう。今の私だったらきっとギブアップしてしまいます。
その頃、忙しいなか比較的じっとしていてくれるのが洋蘭でした。
ランを求めて色々な所へ出向き、珍しいランを探しては描いていました。
それから私の得意ジャンルの一つはラン類となりました。
この作品はまだ私が画家として駆け出しの頃、小さな原種系のランを描いたものです。今とは何か違う「気合!?」の様なものを感じます。
あの頃はどんな気持ちで白い紙に向かっていたのだろう?
最近そんな事をふっと思うことがあります。当時の絵は私の苦しかった思い出と重なり、作品を見るとつらくなる事もありましたが、あの頃の私のように強い気持ちで一心不乱に白い紙に向かいたいと思う今日この頃です。
画:デンドロビウム・カスバートソニー 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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10月のタイトル花
バラの実を描く
ヒガンバナの花が咲き始めると、まるで夏バテから復活したかの様に花屋の店先はカラフルになります。バラやダリア、ガーベラ等のキク科の花等に...
そんなカラフルな花の中にあっても力強さでひけをとらないのがバラの実です。一般的にはスズバラとかローズヒップ等と言って売られており、実際のところ春にどんな花を咲かせていたのかほとんどわかりません。この作品のバラの実もいただき物のフラワーアレンジメントの中にはいっていたもので名前すらわかりません。でもぷっくりとした可愛い形といい、描かずにはいられない美しい実でした。
作品サイズとしては、ハガキ大ほどのごく小さなものですが対象物(バラの実)に力があったので画面の小ささを感じさせない作品となりました。
赤い実の絵は室内に飾ると部屋がパット明るくなった印象になりますのでぜひ皆さんも描いてみて下さい。
ポイントは2点、しかも彩色作業にあります。
ひとつ目、実の美しい赤は下地の色に工夫すること。私の場合はオペラとバーミリオンヒューを彩色します。オペラは発色を上げバーミリオンはその後に塗る赤を塗りやすくしてくれます。
ふたつ目、枯れたおしべを一番最後に描くこと。この時は黒も入れたしっかり濃度のある色で一回で描きます。何回も描くと太くなってしまいますので一筆書きのぶっつけ本番で描きます。少し不安な方は、鉛筆で下書きをしますが、絵の具は一回で決めてしまいましょう。
以上二点です。裏技を使ってバラの実を描いてみて下さい。
画:バラの実 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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9月のタイトル花
黒バラ
今月の花は「黒バラ」です。このタイトルを聞いて「おやっ?」と思った方も多いのではないでしょうか.....そうです「黒バラ」というバラは無いからです。このバラも実は種名は不明です。でも「黒バラ」と言う言葉が好きなので勝手にそう呼んでみました。
話は変わりますが、「黒バラ」というと私はメイアンを思い出します。
現在はフランスで有名な園芸育種会社ですが、私にとっては育種家メイアン一族を思い浮かべます。代表的な品種にピースやピエル・ドゥ・ロンサールなどがありますが、私にとっては何といってもパパメイアンです。
以前切り花を描いたことがありますが、私の心の中にある黒バラはこのパパメイアンなのです。最近知ったのですが、このパパメイアンは花弁が食べられるそうです。「どうやって食べるのだろう?紅茶かしら?ジャムかしら?...」食べるんだったら、今年の秋はパパメイアンの苗木を購入しようかしら。どこか植える場所を考えなくては.....食いしん坊の私の妄想は膨らみます。
まだ暑い日が続いていますが、心はすっかり秋を迎えています。
画:黒バラ 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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8月のタイトル花
アロニア Aronia
アロニアは北アメリカ原産の落葉低木です。
英名はチョークベリーあるいはチョコレートベリーお呼ばれ、日本のカマツカに似ている事から西洋カマツカとも呼ばれているバラ科の植物です。
初めてアロニアを目にしたのは外国のナチュラルイラストレーションだったように思います。ここに描かれているのは何だろう....?と思いながら10数年の月日が経ったある日のことです。
再会したのはいつも植物を買いに行くヨネヤマプランテーション新羽での事でした。大きな鉢に植えられ2m近くの樹高になったアロニアが売っていました。少しお値段が高めでしたが植物の価値を考えるとお値打ちと思える価格でした。
でも....私の車には乗らない...今から思えば送ってもらえば良かっただけの事なのにその時は泣く泣く諦めました。
そして数日後....!!なんと近所の花屋で30cmほどの小さな鉢植えを発見!!当然即買いをしてしばらくは絵を描いたり、眺めたりして楽しみ、3年ほど前に庭に植えました。現在はやっと私の目の高さほどに成長しました。
ネット情報によるとアロニアの健康効果は最近注目されているアントシアニンがブルーベリーよりも豊富で、目にもダイエットにも良いとか。
もっと大きくして沢山実をとらなくっちゃ.....そういえばその後ガーデナーの方から頂いた、赤花&赤実のアロニアも我家にはあります「これも食べるのかしら?」と思っているのですが...まずはその前に描いてあげないといけませんね。
画:アロニア 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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7月のタイトル花
「宵闇に薫る」リンコレリア・ディグビアナ
この作品はボタニカルアートの中でもかなり創造的な作品です。
もともとは中心にある蘭/リンコレリア(旧ブラサボア)・ディグビアナ/
のみが描かれていました。美術館の展示用に大きく自由な発想の作品にしたいと思い、バックを描く事にしました。
蘭の花は夜になると匂いを出す花が多いのですが、このディグビアナは未確認です。でも「この美しい花が夜にいい香りを出している絵を描きたい」という思いでこの作品は生まれました。月光に浮かび上がる美しい花....描きあがってしばらくしてから心の中にあるひとつの作品を思い出しました。
それはR・J・ソートンの「TEMPLE of FLORA」邦題「フローラの神殿」の一頁です。その頁の作品のタイトルは「The night-Bloning Cereus」です。
茎の形は少し違いますが、日本でいう所の「月下美人」が白花のクジャクサボテンの様な花が月夜に浮かび上がっている作品です。
月空と月明かりの映った水辺が描かれていて、更にボタニカルアートではあまり描かない建築物がバックにあるのです。そしてわざわざ壁面に時計を描き開花するのが真夜中で有る事を指し示しています。
きっとこの作者は私と同じことを思って描いたに違いありません。
多くの人が様々な著作物の中で紹介しているこの「フローラの神殿」ですが、私が持っている中で一番気に入っているのがこの復刻版の「Temple of Flora」です。
左:表紙 右:The Night-Bloning Cereus
布張りのハード装丁で見開きの12頁分だけ、切り取って飾れるように画用紙の様な厚い紙にカラーで片面づつに印刷されています。
でもせっかくの配慮なんですが、本好きとしてはもちろん切り取ってしまうなんてことは出来ず、本の形そのままで大切に持っている私です。
画:「宵闇に薫る」リンコレリア・ディグビアナ 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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6月のタイトル花
チシママンテマ
このチシママンテマは礼文島で描きました。
礼文島でも西側の極限られた地域に生えています。水はけの良い斜面を好むため、崩れやすいガレ地に生えている事が多く、礼文島の中でも育成場所が減ってきています。
ナデシコ科の植物らしく、まるで河原ナデシコの様に白く可憐でありながら、マツモトセンノウのようなゴージャスな形をしています。そしてその美しさとは逆に、子房はガッシリとした楕円形で蜜毛で被われており、赤紫色の筋の入った姿は花弁とは真逆と言えるかもしれません。
この時描いた株は小さい株で、このエリアでは最後の1株となってしまったものでした。最後....翌年その場所にはもうチシママンテマは生えていませんでした。それから数年後の初夏、いつものルートを変えて礼文島の山道を歩いていると、大きなチシママンテマの株を発見しました!!そこはしばらく安定した環境が保てそうで少しホット胸をなでおろした事を昨日の事の様に思い出します。
そして、先にもお話しましたが、このチシママンテマは北の限られた地域でしか見る事が出来ませんが、帰化植物のマンテマなら街中でも見ることが出来ます。
私の住む横浜のニュータウンではシロバナマンテマが見られます。街路樹の株元やバス停のアスファルトの割れ目や電車の高架下等々あらゆるところに生えています。
初めて見つけた時はかなり感動しましたが、最近はあたりまえになってしまいました。シロバナマンテマと言っても、正確には淡いピンクの花もあります。少し赤味の強いマンテマを見つけると、四葉のクローバーを見つけたような気持ちになってしまうのは私だけでしょうか......
画:チシママンテマ 吉田 桂子
文:吉田 桂子
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5月のタイトル花
クレマチス「ドクターラッペル」
クレマチスは私の好きな花の中でも上位に位置します。
特にハンショウヅルやロウグチのような4裂で釣鐘状の花のものや仙人草のような原種系の花が大好きです。
この「ドクターラッペル」は普通に花屋で見かける品種です。この作品は春から秋にかけて描きました。その間、切り戻しをして管理すると3回も花を咲かせました。
この作品はボタニカルアーティストという季刊誌のために描いたものです。この季刊誌は日本中の植物画初心者から上級者までが見る雑誌なので、なるべくどなたでも花屋でよく見かける様な植物を描くように心がけています。
画家的には珍しい植物やゴージャスな花を描きたいと思う事もありますが、平凡だと思っている植物であってもよく観察をして、理解を深めていくと平凡な植物はひとつもないことに気づかされます。
植物の中にある幾何学的な法則はまるで数列や方程式の証明問題を美しく解いた時の数学のノートを思わせます。地球の自然はいびつな自由曲線で形成されているのではなく、美しい数式で構成されているようです。
この「ドクターラッペル」の花は、花弁や雄蕊の枚数はランダムなようですが、葉は対生の1から2回3出複葉で形成されています。
なるべく法則が見える様に、そして色々な美しい表状の花が入る様に構図を考えながら描いた作品です。
画:クレマチス「ドクターラッペル」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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4月のタイトル花
ナニワイバラ
ツバメの鳴き声が聞こえてくると、我が家のナニワイバラのつぼみは膨らみ始めます。もともと鉢植えだったものを、地植えにするとあっという間にナニワイバラのフェンスが出来上がっていました。その年の気候にもよりますが、4月から6月の間に花を咲かせませす。
ナニワイバラは他のバラとは少し違い、葉は3出複葉で光沢のある硬い小葉をつけます。花は白い5弁花で5~10cmほどの大きな一重の花を咲かせます。
我が家のナニワイバラは香りがすごく良く、シナモンシュガーのような香りがします。花が咲き始めるとかわいい丸花バチ達がやってきて花粉まみれになりながら花の中央で恍惚としています。あまり可愛いので私が近づいて見ていても、花粉に夢中過ぎて逃げる事もありません。
そうそう、そして昨年はもっと可愛い訪問者がありました。
それはある日の午後のこと....私が仕事から帰ってくると、ナニワイバラのフェンスの前に父娘が佇んでおりました。
5~6才ぐらいの少女とその父親らしき男性は「かわいいね」「きれいだね」
と夢中になってナニワイバラを眺めていました。
「花をお切りしましょうか?」と後ろから声をかけると、ハットした様に
「結構です」と言われてしまいました。そして「とてもきれいですね」と恥ずかしそうにコメントを残して父娘は去っていきました。
今年ももうすぐフェンスが白くなります。
しうしたら、どんな可愛い訪問者があるでしょうか...今から楽しみです。
画:「ナニワイバラ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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3月のタイトル花
カタクリ
このカタクリは神奈川県は相模原市緑区川尻の城山カタクリの里という所で描きました。民営の群落地でご自宅前の里山の斜面に群落を作ってあり、春になるとオープンガーデン?マウンテン?と言った具合で拝見する事が出来ます。当時もまだ少しづつ山に手を入れて植栽を増やしている様でしたから、あれから数年...もっと大きく美しい群落になっているかもしれません。
この群落地ではカタクリの他に、「キクザキイチゲとハチ」という作品も描きました。当初はこのカタクリの合間にアヅマイチゲを描く予定でしたが、どちらも主役にしてあげられるように別々に描きました。実はその折、ミスミソウも咲いていたのですが、時間の都合で描く事が出来ませんでした。
今度また描く事が出来たら、まずはミスミソウを主役にした作品を描き、その後カタクリ、キクザキイチゲ、ミスミソウのオールスターを全て描き込んだ春の里山の絵を描きたいと思います。春の足音はもうすぐそこに聞こえてきています。
画:「カタクリ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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2月のタイトル花
エピデンドラム・マルモラータム
このランに初めて出会ったのは、今日から25年近く前の事です。
当時静岡にあった大きな蘭センターの研究室でスケッチさせて頂く機会に恵まれた時のことです。目移りするほど色々な美しいランの中にこの小さなランはまるで私に手招きをしているかの様でした。その時は1泊2日の旅行でしたので、ともかくいくつかのランをスケッチして帰宅しました。
その後その作品を仕上げようと思ったのですが、やはり観察不足で仕上げ切る事が出来ませんでした。しかし、この小さなランの事が私はどうしてもあきらめがつきません.....
そしてついにそのランを販売してくれる蘭園を見つけ、友人の案内でその蘭園に伺うと「その子」はおりました。静岡の研究温室で描かせて頂いた個体よりはやや小ぶりでしたが、美しい花を小さな体にしっかりと咲かせていました。花にはひだがあり、拡大してみるととても魅力的な形をしています。
私はこのランに導かれるように作画を進めて行きました。
そして、この作品は1998年東京ドームで行われた世界ラン展の美術工芸部門で銅賞とトロフィー賞を頂く事になります。
サインのとおり、まだプロではなかった頃の作品ですが、今から思えばこのランが私をボタニカルアートの世界に招いてくれた「招き猫」ならぬ「招き蘭」だったのかもしれません。
画:「エピデンドラム・マルモラータム」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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1月のタイトル花
シンビジューム’アイスキャスケード’
シンビジュームと言えばシクラメンと並んでお正月に飾る花と言うイメージを持っている方も多いかも知れません。このシビジュームはそんな一般的なシンビジュームとは少し姿が異なります。その名のとおり白緑色の美しい花を滝の様にたわわに咲かせます。この作品を描いた当時は下垂性のシンビジュームは大変珍しく、松戸に住む友人から我が家にやってきたこの植物を大切にしていました。そんなある日、友人から気になるアドバイスが....
「吉田さん、大切にしないでね、大切にすると具合が悪くなるからね...」
どうもだんだん株が小さくなってくると思ったら...室内で大切にしすぎていた様です。松戸にいた時は、外に放りっぱなしで雪が積もっても大丈夫だったそう。すごく寒さに強い品種だったようです。
甘やかしすぎてだめになりかかったシンビジューム’アイスキャスケード’...
現在は鉢から出してなんと地植えにしてしまいました。そういえば最近元気か確認していなかったので、文章を書く手を止めて確認しました。
株は小さくなったものの、地植えのシンビジュームはジンチョウゲの木陰で緑の葉を出していました。その姿はまるで日本自生の春蘭の様にも見え、すっかり根付いたようでした。
画:「シンビジューム’アイスキャスケード’」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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