第38回ーバラを描くー個体の描き分け
第38回ーバラを描くー個体の描き分け
バラ「ファンシードレス」 Posa Fancy Dress
ボタニカルアートと言えばルドゥーテのバラを思い浮かべる方が多いでしょう。私もバラが大好きです。しかし、育てるのは下手ですし、売られている切り花は題材として良い個体がなかなかありません。
今回は良い個体に出合えたので切り花のバラを描いてみました。
個体差を考える
下記の参考作品のバラは、自由が丘のオールドローズも扱う花屋で購入しました。この時ファンシードレスと言う品種を初めて見ました。中輪で上向きの花とし、しだれて咲く花と2種類ありました。とりあえず気に入ったしだれた方を購入して描く事にしました。その後いろいろ調べてみると、この品種は大輪花であることが判明。しかも上向きに咲く方が多いようでした。そして某高級花店で取り寄せしてもらうと、上向きの大輪のバラが届きました。
このように、花屋によって同じ品種でも違う印象の花が売られています。
私はしだれたバラが好きですが、品種の説明としては上向きのバラの方が適切なのでしょう。でも、しだれたバラを描いてはいけないという事ではありません。植物ごとにある個体差を踏まえて描く事が重要なのです。
余談ですが、国際的な植物画の権威である米国カーネギーメロン大学のハント財団では、「ボタニカルアート&イラストレーション」という言葉が使われています。「ボタニカルアート(植物画)」はその、個体を説明したもの、「ボタニカルイラストレーション(植物図)」は種の説明をするものだと、使い分けられているようです。
これらはともに同定(名前のわからない植物の名前を確認する作業のこと)に使えることが「お花を描いた絵」との違いです。なお、日本では植物画(ボタニカルアート)はこの両方を指すことが一般的です。なので...2本とも描いてみました。
参考作品 バラ「ファンシードレス」
難易度の高いデッサン
バラのデッサンは植物の中でも難易度が高く、描くべきポイントが沢山あります。細かい点をあとまわしにすることなく、鉛筆でしっかり描きます(図1)「彩色でなんとかしよう」とは考えないでください。
図1 デッサン
ポイントを確認する
バラを描く上で大切なことを一緒に確認しましょう。
1)まずは花
咲き具合...これが一番です。どれくらいゆるんだところで描くのか、品種ごとの観賞適期を知ることが大切です。花弁や萼の枚数や形もしっかり見ましょう。花弁の厚みと同じくらい細い線で丁寧に描きます。
2)そして葉
バラの葉は奇数複葉です。最大枚数の葉をなるべく画面に入れるようにします。托葉、葉柄、鋸歯、側脈など、すべて鉛筆で描きます。
3)忘れてはならないもの
そですね、「美しいバラには...」トゲがあります。茎や花柄、葉柄などにいろいろなトゲがついています。大きさや形をなるべく正確に描きましょう。
彩色
デッサンが終わったらいよいよ彩色です。基本的には特別な動作はありませんから「彩色の手順」を参考に基本通り描きましょう。
1)色見本を必ず作ります。花や葉の色を試し塗り用の紙に塗って確認しましょう。
2)全体的な陰影をつけます。これは花も葉も同時進行で行うのが理想的です。一番奥にあるものから全体的に彩色作業を進めましょう。
3)個々の花弁や葉脈(細い側脈なども)を描きます。花弁は付け根の影を、葉脈は基本的は塗り残して表現すると言っても(2)の作業で全体的に影が彩色された上に作業するので真っ白に残るわけではありません。もしも葉や茎に赤みを帯びた品種を描く場合は、緑でおおかた描いてしまい、最後に赤を重ねて彩色します。この時、緑が赤を吸い込むので、少し明るめの鮮やか赤で重ねましょう。
彩色の手順
平塗はせず、ぼかしながら下塗りをする。
細かい脈などは気にせず、全体の陰影を彩色する。
側脈を塗り残しながら、細かい部分を彩色する。
関連記事→第1回ーバラを描く デッサン編
関連記事→第2回ーバラを描く 彩色編