第21回ーナデシコを描く
第21回ーナデシコを描く
秋の七草のひとつナデシコ。
最近では色々な品種があり、夏頃から咲く品種もありますが、
やはり秋風にゆられて咲くナデシコには、大和撫子の言葉のとおり
線は細くしなやかでありながら、凛とした強さを持つ、日本女性の様です。
今回はラフの品種を見比べつつ園芸品種の描き分けについて考えます。
手抜きの方が難しい
ナデシコの品種の描き分けで一番重要なのは、当然花の形です。5枚に分かれている花弁そのものの形も様々ですが、一枚一枚の花弁の切れ込みの形も、浅いものから深いものまで色々です。
デッサンの基本でいつも申し上げている事ですが、まずは大きく形を捕まえる事が重要です。この「大きく」の意味は「おおまか、いいかげん」と言う意味ではありません。ナデシコの場合であれば、まず5枚の花弁の形とすき間の開き方(図1)、次に一番深く切れ込んでいる裂片の形(図2)、そして最後のその間にある細い切れ込み(図3)となります。
図1~3
適当に歯抜けに描くくらい難しい事はありません。じっくり手順を追えば正しく描く事が出来ます。ネバーギブアップの精神でひたすら丁寧に描きます。
植物が延びるがごとく
花の難しさからみれば、葉は簡単なものです。葉の基部が合着して対生になり、品種によって葉の長さや幅に違いがある事を除けば、葉は細長いだけで複雑な葉脈等もありませんから、苦労せずに描けるでしょう。
第8回ーリンドウを描くの時と同じように、葉の合着部分から外側に向かって線を引きます。葉は葉元から葉先へ描くのが基本です。どんな植物でも葉先から葉元に向かって描いてはいけません。この描き方をすると葉柄や茎の付け根にところで長さが合わなくなり、全て消して描き直しをせまられることになりがちだからです。
更に彩色でも品種の描き分け
デッサンで花や葉の形を描き分けましたが、彩色においても品種ごとの微妙な違いを表現しましょう。
まず混色についてですが、今回のモチーフは花にしても葉にしても色の系統を見極める事が大切です。一言でピンクや緑と言っても青味が強かったり、黄味が強かったり、その中間だったり微妙です。図4のように色の系統によって選ぶ色を変えたり、彩色の際の配合率を変えたりして品種ごとの色の違いを表現します。
図4
そして更に彩色の際、絵の具の重ね方にも工夫をこらしましょう。この参考作品は3種のナデシコが描かれています。ダイアンサス(右)はやや黄緑味を帯びた緑、カワラナデシコ(中央)は青緑系の緑、そして種名不明のナデシコ(左)はその中間ぐらいの緑です。図5のように地塗りの色やその後に塗る色を変えて品種ごとの緑の微妙な違いを表現しましょう。
図5
特にナデシコ(種名不明)の色の考え方は、万が一、葉の彩色を失敗した時にも使えます。例えば葉の色がくすんだ彩度の低い色になってしまった場合は、彩度の高い鮮やかな色をうすく水で溶いて平塗します。これを私は「上かげ」と呼んでいます。また、青味のある葉を黄色系の葉に描いてしまった(またはその逆)場合は、逆側の色(この場合は青系の色)をうすく上がけします。
透明水彩の良い点は、この様に次に塗る色で挽回できるという事ですが、失敗しないにこした事はありません。特にカワラナデシコのようにうすい青緑はこのように修正する事は出来ません。失敗したらまた白い紙から描き直しになりますので、一生懸命描いたデッサンを台無しにしないよう丁寧に彩色しましょう。