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第11回ークヌギを描く

第11回ークヌギを描く

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天高く上へ上へと伸びるクヌギの木。そんなクヌギの木も色づき葉を落とす季節になりました。花が少なくなる季節ですが一方、数々のどんぐりは一年に一回の素敵な贈り物です。私がフリーの植物画家になった頃、初めて頂いたお仕事の一つに、東京農業大学のグリーンアカデミーでの植物画指導の仕事があります。今回のクヌギはこのグリーンアカデミーの敷地内にある大木の一枝です。はっきりとした葉脈と鋸歯の描き方を通して、陰影と彩色作業との関係を学びます。

線で立体を描く

彩色のお話をする前に、まずはデッサンについてお話をしたいと思います。指導の仕事をしていて感じる事ですが、初心者の方ほどデッサンをしっかりせずに彩色をしてしまう傾向があります。デッサンに時間をかけてしっかり描くということは、まずしっかりと観察することにつながります。そして植物の陰影や立体感は、彩色だけで表現するわけではなく、デッサンでしっかり描けていなければ、いくら彩色で陰影をつけても植物が立体的に見えてくることはないでしょう。特にデッサンをしながら彩色後の作品イメージが想い描けるようになり、彩色にかかる時間も大幅に短くなるでしょう。デッサンは「脳の中で彩色をしながら」描いて下さい。

部分的な調子

鉛筆デッサンでよく「調子をつける」という言葉を使います。これは「陰影をつける」という言葉を使います。これは「陰影をつける」という意味で、鉛筆で描いた諧調(グラデーション)のことを「調子」ともいいます。私の植物画の技法のひとつに、この「鉛筆で調子をつける」ということがあります。この技法は彩色の前にも後にも使える技法で、混み入った物を描く時は彩色前に、白い花など、あまり絵の具での彩色ができない物や仕上げがぼんやりしてしまった時は、彩色後に行うと効果的です。今回の作品はクヌギの実、影の部分に鉛筆の調子が入っています。(図1)

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鉛筆で調子をつける
混み入ったモチーフの場合は特に、彩色前に陰影をつける。今回の場合は、実の影の部分に鉛筆で調子が入っています。

いよいよ彩色

彩色は必ず淡い色で彩色します。1回ずつ塗り、完全に乾いたら後述の①から③の色を塗り重ねていきます。仕上がった時に濃く見える部分は、絵の具の濃度で濃く(暗く)なるわけではなく、重ねの回数によって表現するのだと思って下さい。(図2)

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葉の裏、葉の表、枝・実を彩色する。

①葉の裏
サップグリーン+プルシャンブルー+バントシェンナを混ぜた色で、ほぼ平塗りで塗り重ねます。

②葉の表
サップグリーン+プルシャンブルー+ミネラルバイオレットを混色して、ぼかし塗りをします。影(暗いところ)に絵の具を塗り、光(明るいところ)に向かって、絵の具を伸ばして(ぼかして)いきます。

③枝・実
若い枝と古い枝、それぞれの色で淡く彩色します。アイボリーブラックを中心にして混色して混色してみて下さい。この段階の作業の重点は光と空間です。主脈と鋸歯の色の明るく見える部分は塗り残しますが、それ以外の細部は気にせず大きな陰影をつけてください。

常に光と影を意識して

常に光を意識しながら、さらに陰影をつけていきます。まずは少し細かいところにも目を向けて、葉のフリルや鋸歯を強調していきます(図3)。

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細かい葉のフリルや鋸歯を強調する。

そして、植物の佇まいが表現出来たら、側脈などの細部を描き込みます。この時重要なことは、常に光と影を意識した陰影をつけるという事です。葉脈などの細部を描きはじめると、ついつい流れ作業にようになってしまいます。そうすると、せっかくの陰影がなくなり、平板な絵になってしまいます。暗く影になっているところの葉脈の作業は何回も行い、明るいところの作業は回数をひかえめ目にして、より陰影を強調して下さい。(図4)

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葉脈に陰影をつける。

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