ボタニカルアートを描く人のための専門情報サイト

グリーン・ゲイブルズの香り~植物の癒し力

グリーン・ゲイブルズの香り~植物の癒し力

グリーンゲイブルズ

NHKの朝の連続ドラマ「花子とアン」も始まって早やひと月。花子の腹心の友も登場して物語も
いよいよ本編突入といった感じです。この物語は言わずと知れた、カナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリーの著書、「グリーンゲイブルズのアン」を「赤毛のアン」のタイトルで日本に紹介した翻訳家村岡花子さんをモデルにしたドラマですが、赤毛のアンのストーリーやセリフを、巧みに織り交ぜた脚本は両方の物語を楽しめる趣向になっています。皆さんも「あ、このエピソードはアンのあの部分」「このセリフはあの時のセリフ」なんて思い出しながらご覧になっているのではないでしょうか。

「赤毛のアン」は少女から乙女へ成長するアンの身の回りに起きる数々の愉快な事件が語られます。主人公アンのキャラクターの魅力は、いちはやくそのとりこになったマシューのように、私たちを物語の中に引き込んでいきますが、この物語の魅力はそれだけにとどまらず、プリンス・エドワード島の美しい自然の描写にあることはいうまでもありません。なかでも「香りの描写」は私たちが想像の翼を広げる後押しをしてくれる大事なフレーズになっています。その例をいくつか村岡訳から引用してみましょう。

ニューブリッジの人々が「並木道」と呼んでいるこの道は長さ、四、五百ヤードで、何年か前に、ある風変りな農夫が植えた巨大なりんごの木が、ぎっしりと枝々をさしかわして立ちならんでいた。頭上には香りたかい、雪のような花が長い天蓋のようにつづいていた。枝の下には薄暮が一面にたちこめ、はるかさきのほうに、寺院の通路のはずれにある大きなばら形窓のように、夕やけ空が輝いていた。

家の両側は、一方はりんご、一方は桜の大きな果樹園になっており、これまた花ざかりだった。花の下の草の中にはたんぽぽが一面に咲いていた。紫色の花をつけたライラックのむせるような甘い匂いが朝風にのって、下の庭から窓べにただよってきた。

二人が家への小径にかかるまでアンはなにも言わなかった。どこから吹いてくるとも知れぬそよ風が、露にぬれた若いしだの強い香りをのせて、二人を迎えた。

小径のへりにはほっそりとした若い樺が、幹は白く、しなやかな枝で、どこまでも立ちならんでいた。しだやスターフラワーや鈴蘭や真紅の草の実がずっとその径に沿って茂り、空気はいつも快い香気がただよっていた

ある六月の夕方のことだった。果樹園にはふたたびピンクの花が咲き、「輝く湖水」の上のほうの沼ではかえるが低い声で楽しそうに歌っていた。空気はクローバーの原と、樅の林の香りで馥郁としていた

しかし、ある夕方、ついにニュースがはいった。おりからアンは試験の苦しみもこの世の苦労も忘れて窓べにすわり、庭からただよってくる花の香りやポプラの葉ずれなど、快い夏のたそがれの美に陶然としていた。

ミス・ステイシーの写真がかざってある所が部屋じゅうでいちばん名誉の場所で、その下にアンはいつも新しい花をさしておいた。今夜は白ゆりが部屋じゅうに夢のような、ほのかな香りをただよわせていた

「おおダイアナ、家へ帰ってくるってなんていいんでしょう。あの薄紅色の空にとがった樅の木が映えてなんて美しいのかしら。白い果樹園も、なつかしいスノー・クイーンも見られるし、ああ、ハッカのいい香りがするわ。~」

ある晩、アンとマリラが、あたたかく香しい夏の薄暗がりに包まれて、玄関先にすわっているところへ夫人が現れた。二人は、白い蛾が庭に舞い、露気を帯びた空気にハッカの香りが漂うたそがれ時に、そこに腰をおろすのが好きだった。

アンはその夜、満足することの幸福をしみじみ味わった。桜の枝を風が静かにわたり、ハッカの香がただよってきた

どうでしょうか。香りの描写があることによって場面の空気までリアルに想像できませんか?
それでは、なぜ香りの描写がこんなにも私たちの想像の翼を広げてくれるのでしょうか。

それは、嗅覚は、一次中枢である視覚野、聴覚野が大脳新皮質にある視覚や聴覚と違って、嗅覚野が情動を司る大脳辺縁系にあるため、視覚や聴覚よりもいちはやくにおいの存在を認知することににより危険や快、不快、好き、嫌いなどを察知したり記憶をよみがえらせる器官だからです。
春の訪れを告げる沈丁花の香り、夏の夕暮れ時の田園に漂う稲穂の香りや秋晴れのひだまりの藁の香りそして、冬枯の木々をゆらす北風の匂い。そんな、数々の香りの記憶が、しばしば懐かしい情景を伴って思い出されるのは、嗅覚が感情に直接的につながっているからなのです。

木漏れ日の木

そのように、私たちの感情を刺激する香りは様々ありますが、植物が放つ花や葉の香りは、昆虫を引き寄せる誘引効果、動物や昆虫の摂食を阻害する忌避効果、有害な真菌類や細菌の増殖を防ぐ抗真菌・抗菌効果、他の植物への成長阻害作用など植物が身を守るための作用等の他に私たち人間への健康効果も知られています。この物質は「フィトンチッド」と呼ばれ、1930年頃、旧ソ連の科学者トーキン博士によって名づけられました。いまでは主に「植物が生産・放出する揮発性活性物質」という意味で使われることが多くなっています。

中でも森林で感じる心地よい香りはこのフィトンチッドによるもので、50~100種類の精油成分を含んでいます。ヒノキから抽出されたヒノキチオールの強い抗菌作用の他、マツ、ヒノキ、スギなどの針葉樹に多く含まれるαピネンによる緊張時に生じる精神性発汗の減少や脈拍数の減少、自律神経の安定、収縮期の血圧の低下、脳活動の沈静化などの作用も見られています。このような効果を期待して現在では森林療法として、交感神経優位の緊張状態から自律神経のバランス回復のためのリフレッシュをしたりうつ状態の改善などに取り入れられています。

5月は新緑の季節。
赤毛のアンを片手に、木漏れ日射し込む森を訪ねてあなたも出かけてみませんか。

グリーンゲイブルズ写真:プリンス・エドワード島州政府観光局- カナダ -公式ガイド

コメント


認証コード5264

コメントは管理者の承認後に表示されます。

powered by HAIK 7.3.7
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional