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2016年タイトル花

2016年タイトル花

12月のタイトル花

エンシクリア・マリエ

若い頃ファッション・デザイナーをしていた私は子供の頃からテレビでパリコレクションを見るのが楽しみでした。美しい衣装をまとったモデル達...必ずショーの最後にはそのブランドのイメージモデルがmarie(マリエ)姿で登場する事でした。

そうです、今月のタイトル花に選んだこのランの名前こそが、その「marie」で、意味はフランス語のウエディングドレスの事です。なぜこのランがこのように名づけられたかと言いますと、リップ(唇弁)の白い部分がまるでウエディングヴェールの様に見える事からだと言われています。

属名はエンシクリア属と表記しましたが、以前はエピデンドラムであるとも言われていました。ではどうしてエピデンドラムからエンシクリア属に変わったのでしょう...

現在はほとんどDNAによる分類法の表記に変わってしまいましたが、私は古い形態分類法の方が使いやすいです。なぜなら画家にとって観察しなくてはならないポイントが分類のポイントになっているからです。そしてこのエピデンドラムとエンシクリアの違いなのですが、エピデンドラムはリップ(唇弁)が、ずい柱の先から出ているのに対してエンシクリアは、ずい柱の基部から出ています。この違いを細かく分ける場合...マリエはエンシクリア・マリエ(Encyclia marie)の表記となるのです。

そして実はこの作品は2作品目でマリエを2回描いています。
それはなぜかと言いますと、マリエの姿を正確に描けていなかったからです。私はランを購入すると描く前に必ず支柱をはずします。そしてしばらく落ち着いて自然な姿になったところで描くようにしています。しかし、1作目のマリエは花柄が立った状態で描きました。そして翌年自宅で開花したマリエを見てビックリ!下垂して咲いているではありませんか...手持ちの図鑑でも立ったままの写真があります。しかしよ~く見ると...「あっ!」支柱が付いているではありませんか。私は植物を自由にさせて方が好きなので支柱はかけません。だって、それが本当に姿のはずですから...
ただ、ラン等は自生地が違うものがありますから、日照の角度が違ったりすると姿形も変わってしまうかもしれません。

原産地に思いをはせて描く...そんな事も大切な事かもしれません。

画:「エンシクリア・マリエ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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11月のタイトル花

菊

子供の頃、我家の秋は菊の花であふれていました。
それは母の勧めで老後の趣味にと菊の栽培をしていた父が育てた花たちでした。嵯峨菊、丁子菊、管物に菊の御紋のような一重の等に...沢山の品種があり、そんな中で私の大好きな品種がありました。その品種は三本仕立て用の大輪品種で外側はからし色のような金色のような色をしており、内側は対照的にビロード状のワインレッドをしていました。

沢山あるそれぞれの花の茎には名札が下がっており、私の大好きな菊には「港南の錦」と言う名札が付いていました。雨上がりの晴れた日には、花の内側に残る雨のしずくが、ビロードの赤に映えて大変美しく、自分の顔の大きさくらいある大きな花を感動しながら覗き込んだ事を思い出します。

今回のタイトル花の種名は不明です。色は港南の錦に似ていますが、形が少し違う様に思います。園芸品種には似た感じなのに品種が違う物が沢山あります。ですから共通点と相違点をしっかりと踏まえて正しくデッサンする事が必要です。

実はこの作品が出来上がるのには数年かかりました。しかも作画時間では無く、花屋の店先でこの花を見つけでから購入を決心するまでに数年かかってしまいました。初めて花屋の店先で見つけた時とても心を揺さぶられましたが、菊の花には色々な思いがあり過ぎるからかも知れません。思春期から無くなる事が無かった父との確執や自己嫌悪...沢山の沢山のことがあり過ぎました。でもこの美しい一輪の花を描く事で全てを受け入れられた気がします。もうすぐ父の一周忌...今は穏やかな気持ちで菊の花を見つめる事が出来ます。

画:「菊」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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10月のタイトル花

スプレーギク

この作品は「平凡」という作品名で発表しました。
決してこの菊の品種名ではありません。私は作品にタイトルを付ける時、2通りのつけ方をします。1つ目は皆さんもそうされるように描かれた植物そのものの科名と種名の和名表記です。そして2つ目は作品名...つまりその絵の中に込めた思いが絵のイメージを言葉に変えたものです。そのときは「」かぎカッコをつけて品種名と間違わない様に表記しています。

さてこの作品の話に戻りましょう。
白い何の変哲もないスプレー咲きのキク...いつもなら仏花用の花束に入れられてしまう様な花です。しかし不思議なもので絵にしてみるとすごくステキだなあと思いました。どんな地味な植物でも丹念に観察していくと大きな発見があるものです。そしてそれをコツコツ積み上げて行くことがボタニカルアート作家にとって大切なことだ気づかせてくれます。そして日々の生活も同じであることを植物達は私に語りかけてくれます。日の出と共に葉や花を広げる植物の様に朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで「平凡」な毎日を大切にしたいと思う今日この頃です。

画:「平凡」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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9月のタイトル花

エゾリンドウ

礼文島も9月の声を聴くと秋の気配が広がります。
夕陽が美しさを増すこの季節になると、野山の葉は色づきはじめ、木々の下にはリンドウ科の植物が咲き乱れます。その中でもエゾリンドウの青は一際美しく、その花を林道で見つけると、まるで青い鳥を見つけたような幸せな気持ちになります。

私は青から紫のトーンの花を得意としています。しかし、このエゾリンドウは彩色が大変難しい花でした。なぜなら彩度の高い青紫色の花弁の中心部分に、やはりこれも彩度の高い緑色の斑があるからです。
何度かお話したかと思いますが、透明水彩絵の具の性質上、補色(反対色)どうしを混ぜたり、重ね合わせたりすると、色が濁ってしまったり、彩度が下がってしまったりします。なのでこの花の場合は小さな斑の一つ一つとその回りをそれぞれの色で彩色しなくてはなりません。葉は結構スムーズに仕上がりましたが、花は少しづつしか彩色を進める事が出来ませんでした。

よくお教室で「描くのに簡単な花は何ですか?」と聞かれます。デッサンが楽と思えば彩色が難しかったり、彩色が楽そう!と思えばデッサンが難しかったりします。両方簡単な花ってあるだろうか?あえて言えばニチニチソウでしょうか....でもやはり難しい部分はある様に思います。
つまり...牧野博士曰く...
「植物画には忍耐を要する」という事のようです。

画:「エゾリンドウ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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8月のタイトル花

スカシユリ

初夏を迎えると我が家の庭はあちこちにオレンジ色の花が咲きます。
ヒメヒオウギスイセン、ノウゼンカズラ、オニユリそして花ではありませんが、ホウズキの実等々...緑が色濃くなった庭に補色のオレンジの花はより鮮やかに美しく感じます。

今回のタイトル花は、スカシユリです。この作品は制作過程を以前、ウェブ講座でもご紹介しています。この時描いたスカシユリは鉢植え栽培品です。

日本にはユリ原種が多く、大きくはテッポウユリ亜属、ヤマユリ亜属、スカシユリ亜属、カノコユリ亜属に分かれるようです。スカシユリの仲間には他にヒメユリ、エゾスカシユリ、イワトコユリ等がありますが、エゾスカシユリは礼文島にも自生しており、何度かスケッチをしています。いわゆるスカシユリとは違った、オレンジ色をしていて光の加減によってはピンクに見えたり、黄色く見えたりして、まるでカラーセロハンを重ね合わせた様な色をしており、水彩絵の具でなくては表現しえない繊細なオレンジ色をしています。ここで描かれているスカシユリは新潟県の海側や佐渡ヶ島に自生していると聞いたことがあります。風雪に耐え、夏を待ち望んだように、草丈には不釣り合いなほどの大きな花を咲かせるスカシユリはきっと美しい事でしょう。ぜひ一生のうち一度は佐渡ヶ島に渡って自生しているスカシユリを描いてみたいものです。

画:「スカシユリ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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7月のタイトル花

キンギョソウ

一般的にプロの植物画家は原種系の植物を好んで描くと言われています。園芸種よりも種の特徴が追いやすく同定がしやすいからだとも言われています。そのことから考え合わせるとこの作品は対局にあるかも知れません。ホームセンターや近所の花屋で売られているポット苗のキンギョソウを描いたからです。実際たくさん購入した株のうち、なぜか1株だけ値段の高い株がありました。自宅に帰ってよく観察するとそれだけは八重のキンギョソウでした。この花は全て八重の花が咲き、この花の特徴であることが確認できたのでこの作品には加えず、単体で描くことにしました。そしてその他のキンギョソウは子供が描く構図のようにわざと横並びの構図にしました。
折に触れてお話しているのですが、あまり好きではない植物でも描くと好きになってしまいます。皆さんは好きな植物を描くことが多いと思いますが、私の場合は日本園芸協会の「ボタニカルアーティストの会」の会報誌の為に皆さんが良く見かける植物を描いています。その為、必ずしも自分が好きな植物を描くとは限りません。しかし不思議なもので描くために観察をしてゆくと「おおっ~ここはこうなっていたのか」とか色々な発見をします。するとその植物のことがいつの間にか好きになっているのです。考えてみれば人付き合いと似た様なものですね。とっつきの悪い人、強面の人も付き合ってみたら意外と良い人だったなんてこと良くありますよね。植物もよく理解をして寄り添う気持ちがあればきっと全部好きになることでしょう。

画:「キンギョソウ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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6月のタイトル花

ガクアジサイ

我家の窓からお隣の庭が見えます。失礼なのであまり見たりしない様にしています。しかし先月、ちらっと目の端にピンク色の花がひっかかりました。
窓の外を眺めると、ピンクのガクアジサイでした。
やや濃味を帯びたピンクの花は美しいものです。我家のアジサイは残念ながら全て青です。このタイトルになったガクアジサイも地植えにするとあっと言う間に青花になってしまいました。我家の庭は東洋ランには居心地の良い土壌だそうです。アジサイも大きくなり居心地そのものは良さそうですが、酸性土壌のため、全て青くなってなってしまったようです。

昨年、我家の建て替えに伴って、庭の植栽を大分変更しました。その際、たくさんあったブロックをクリスマスローズの植栽の下に埋めてしまいました。ガーデナーさんのアドバイスだったのですが、少しアルカリ性に傾くのでクリスマスローズが元気になるとの事でした。おかげでその秋ブドウがたわわに実り、今年の春のクリスマスローズは色も濃く大変美しい花を咲かせてくれました。そしてアジサイの季節....
クリスマスローズの植栽の中に2株アジサイが植えてあります。
1株は一般的な玉アジサイで、もう1株はオタフクです。日当たりの悪い所に植えたので、となりお宅のアジサイは咲いているのに、その植栽の中のアジサイはまだ固いつぼみのままです。

青かピンクか...暇を見つけては窓の外に熱い視線を送る毎日です。

5月のタイトル花

ジャーマンアイリス

東京に住んでいた頃、幹線脇の細長い小さな畑に変わった色のジャーマンアイリスが植えられていました。前を通るたびに「欲しいなあ...」と思っていました。そして数年後のある日、その小さいな畑は突然になくなり、建物が建ってしまいました。「残念...」皆さんも似たような経験をした事があるのではないでしょうか?私の念力が通じたのか、横浜に帰って数年後、我家にいろいろなジャーマンアイリスやアヤメ科の植物がやってきました。イチハツ、ナショナルベルベット、ジャーマンアイリス2種(白花、淡紫色)でも、私の欲しいジャーマンアイリスではない...私の欲しいジャーマンアイリスはバイカラーのジャーマンアイリスでした。そんなわがままな事を考えているある日のこと、近所の農家からついにバイカラーのジャーマンアイリスが我が家にやってきました。そしてこの絵が完成したのです。

ジャーマンアイリスはこの大きな花を次々と咲かせます。切り花にしても水上げが良いので次々と蕾をつけてゆきます。しかし、ひとつの花はあっと言う間に終わってしまうので、描く場合はモデルが何人!?も必要です。そしてベルベットの様な美しい色!!私は白い絵の具を使ってこのベルベットの様な質感を作ります。まず、下地にこれ以上重ねられないと言うほど紫を重ねた上に白を塗り、紙の上で混ぜるのです。ボタニカルアートの場合、通常枯れた花を描く事はあまりありませんが、ジャーマンアイリスの咲き終わった花はあまりに美しく思わず描かずにはいられませんでした。

画:「ジャーマンアイリス」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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4月のタイトル花

チューリップのブーケ

とある春の日、あまりに気持ちがよかったので表参道から渋谷まで歩くことにしました。オシャレな洋服屋、ショコラティエetc...ウインドーを覗きこみながら歩いていると、一軒の花屋の前で思わず足をとめてしまいました...

花屋の細長いブリキのバケツに色、形とりどりのチューリップがところ狭しと並んでいました。チューリップ好きの私のこと、そこは素通り出来るわけもなく...数分後色とりどりのチューリップを手にとっていました。

そして毎年チューリップの季節が来るたびにチューリップをたくさん購入して描き加えました。構図にうまく合うチューリップかどうかは購入して自宅に帰り、合わせてみないとわからない事もありました。そんな時は後で「買っておけばよかった...」と思わないように、多めにチューリップを買って帰るのです。描かなかったチューリップは「見て楽しむ...」これも大切なことです。よくお教室でお子さんやお友達に頂いたからと言って無理に描いている方をみかけます。「きれいすぎて描くのは難しかった」「ステキなので見て楽しみました」そんなお返事をして無理に描かない勇気も必要です。それがお花に対する私の礼儀です。そして数年かかって完成した作品がこのチューリップのブーケです。

こんなに時間もかかり制作は大変でしたが、ついついステキなチューリップを花屋の店先で見かけると描きたい気持ちになってしまう私です。

画:「チューリップのブーケ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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3月のタイトル花

ハゴロモキンポウゲ

我家の庭には白い花々の植栽があります。
ヘレボルス’ニゲル’、スノードロップ、ガーデンシクラメン、サクラソウ等...でも残念ながらこのハゴロモキンポウゲはありません。この作品を描いた当時は夏の管理が難しいので鉢で栽培していましたが、結局枯らしてしまいました。また、どこかで巡り合えたら今度は白い花園に植えてあげたいと思います。

さて、このハゴロモキンポウゲですが、ボタニカルアートのモデルとしては難しい題材のひとつと言えるでしょう。白い花、ブルーグレーの葉は彩色ではなく、デッサンの良し悪しで決まります。HBより柔らかい鉛筆で描くと線の色が黒いのでH以上の硬い鉛筆の細いグレーの線でデッサンすると美しい仕上がりになるのです。線が美しければ色でごまかす必要はありません。さらっと彩色することで美しい白と淡いブルーグレーの表現につながります。

画:「ハゴロモキンポウゲ」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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2月のタイトル花

カタセタム

まだ東京に住んでいた十数年前、私はこのカタセタム属のラン達のとりこになっていました。過去形なのは、横浜に引っ越しをした折、環境の変化ですべてダメにしてしまったからです。ブラジル産の珍しいランですから、毎年少しづつ集めて大切にしていたので、枯らしてしまった時は大変なショックでした。しかし、こうして絵として少し残っていますので、良しとしなければいけませんね。まさしくその植物がいなくなった後も姿が残る...それがボタニカルアートの素晴らしいところですから。

前置きはさておき、このランに魅力について少しお話致しましょう。
このランはラン科には珍しく、雌雄異なる花を咲かせます。ここに描かれているのは雄穂、雄花のみです。結局この種の雌花を確認することは出来ませんでした。カタセタムは近年まで雄花と雌花があまりに違うので、別種のランであると誤解されていました。それは1株のランが花を咲かせるとき、雄花と雌花は同時期には咲かないからです。ではどうやって受粉するのでしょうか?それは虫です。カタセタムの雄花はバネ仕掛けのようになっており、虫が花に触ると、花粉がはぜて、虫の背中にくっつきます。そして、遠く離れた場所で咲いているかもしれない雌花に受粉出来るのを、虫の背中で待っているのです。植物の戦略は恐ろしいほど緻密です。

この文章を書いていて、今突然、マーガレット・ミーの作品を思い出しました。彼女の生き方に感銘してきました。ブラジルで描いた彼女の作品の中にカタセタムの雄花と雌花が同時に描かれている作品があります。今から思えば、あれは作為的な構図だったのかも知れません。しかし、一生のうちに一度でも良いから雌花を咲かせているカタセタムを描いてみたいものです。そうそう、そしてまれに咲かせるという両性花もです。

画:「カタセタム」吉田 桂子
文:吉田 桂子
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1月のタイトル花

スノードロプ

スノードロップは春の訪れを先取りする様に、まだまだ寒さの残る早春に咲き始めます。以前、私は同じ植物を描くことはあまりないとお話したかと思いますが、スノードロップは大好きな花のひとつで、何度かこの可愛らしい姿を描いています。

スノードロップは和名では「雪割草」です。雪割草と言う名前は色々な植物に使われており、「春一番に咲く花」と言う意味で使われている植物です。似た名前の植物でスノーフレークがあります。インターネット等で見ても、たまにスノードロップと混同している方がいる様です。同じヒガンバナ科の植物ですが、スノーフレークの葉はスイセンに近く、スノードロップの葉は科は異なりますが、ヒヤシンスの葉に似た形の葉を付けます。

何と言っても、草丈が違い、スノードロップは10cm程にしかならないので、正しく雪を割って顔を出すというイメージです。それぞれ美しい植物ですのでしっかり名前を憶えてほしいものです。

画と文:スノードロップ 吉田桂子

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