第6回ースカシユリを描く
第6回ースカシユリを描く
強い陽射し、白いシャツに麦わら帽子、アゲハ蝶にセミの声。
幼い頃の夏の思い出に必ず登場する、白、黄、オレンジ、ピンクなど色とりどりの香り豊かな花~「ユリ」~その中でも意外に描きやすいスカシユリを例にとり、そのデッサンと彩色のポイントについて考えてみましょう。
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キーワードは「3」
スカシユリの目立つ特徴は、花の名前の通り、花被片どうしの間に隙間があくことと「3数性」~外花被片3枚、内花被片3枚、雄蕊6本、雌蕊の先は3裂、子房は3気室といった具合~で幾何学的に出来ている事です。深緑色で光沢のある葉は互生でそれほど特徴はありませんが、茎にエンジ色の模様が入り、そして地下には美しい鱗茎が出来ます。美しい花を目の前にすると、ついつい慌てて描いてしまいがちです。むろん花が大きく変化する前に描かなくてはいけませんが、よく観察をして描かないと彩色の途中で後悔することになります。花に夢中になって描いても、夢中にさせられてはいけません。
Botanical Art & Illustration
前述のような形態分類上の特徴を踏まえて、すべての要素を網羅した絵が「ボタニカル・イラストレーション」、日本で一般的にいう植物画で、科学的な図版として良いものとされています。しかし、ボタニカル・アートとして考えてみると、必ずしもそのことだけで美しい絵になるとは限りません。
どのような花を、どのような時期に、どのような構図で、光の処理は、彩色の技法は、そしてどのような想いで等々、作者のいわゆる「絵創り」が加わってこそ、写真ではない写実絵画の良さが初めて表現できるのです。
「タテゴチャ」がすっきりの決めて
美大受験のために静物デッサンを学んでいた頃
「構図はなるべく縦位置をとるとよい」と習いました。
これは植物画を描く上でも大切な事です。
やたらに横広がりの絵を描いたり、奥にある枝などを省いて
重なりのない構図で描いている方をよく見かけます。
これは空間を効率よく表現するためには逆行する表現方法です。
例えば、左図のように、球体が3つ並んでいると仮定します。
図Aは前後左右の空間が表現できていますが
図Bは左右の空間しか表現できていません。
このように縦位置の構図をとりモチーフどうしの
重なりを作るだけで、空間がより表現しやすくなります。
ユリのデッサンのポイント
1)満開や咲きかけ,蕾などの色々な状態の花と茎、葉が前後左右に重なりあった奥行きのある構図を選びます。
2)いきなり細かく描かずに、基本構造をあたり線で描いてから、肉付けをします。
3)外花被片が内花被片の裏中心をはさむように付いていることを踏まえて花を描きます。蕾を見ると良くわかります。
4)雄蕊、雌蕊はまず、葯と柱頭を描き、次に子房と花糸の付け根を描き、その間は最後につなぐと良いでしょう。
5)葉、茎などの枝分かれが前後左右どちらに出ているのか解るように、しっかり描きます。
「面・ぼかし・点・線」四技法メドレーで描く
彩色の基本技法で平塗りとぼかし塗りがあります。この技法がきれいに出来ないと一喜一憂している方をよく見かけます。これは無意味です。全く気にする必要はありません。なぜなら彩色の手順でまずこの二技法で大きな陰影を描きますが、その後、残りの二技法を加えて更に塗り重ねをして、質感の描き分けをするからです。つまり線描や点描の筆跡を活かして描くため、多少の塗りむらは気にならなくなってしまうのです。ただきれいに絵の具を塗った絵は「美しい塗り絵」にはなっても「美しい絵画」になるかは別問題なのです。
単子葉は線描が重要
厳密に言えばもっと多くの技法を使用しますが、まずは基本四技法「平塗り」「ぼかし塗り」「点描」「線描」を使用すれば、ほとんどの題材は描くことができます。スカシユリの場合は花被片、葉の質感表現に線描を多用します。この線描が効果的に使えるようになると、チューリップの花被片の光沢やスイセンの葉脈など単子葉を描く上で欠かせない技法となります。
地面の中の宝物
スカシユリを描くうえで忘れていけないのは、「鱗茎」です。鉢植えなどの根付きの物を描いた際はぜひ掘り上げて描きたいものです。泥は軽く洗い流して、やや乾いたものを描くと良いです。花と鱗茎の時期が違うものを描くときは、繋がっている構図にならないように注意しましょう。
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スカシユリの彩色のポイント
1)奥から手前に向かって常に彩色の作業を行うようにします。
2)雄蕊、雌蕊は最後まで塗らずに、白く空けておきます。
他の花を描くときも同様にすると良いでしょう。
3)平塗りはその後に塗る絵の具の発色を上げる役目もあるので、
花はレモン・イエローで、葉は葉脈のように鮮やかな黄緑色で薄く下塗りをします。
4)花は黄橙から赤橙の間の色で、葉は深青緑色の濃淡で、
最低5、6回は薄いぼかし塗りを重ねて、大きな陰影を描きます。
5)少し(4)の段階より濃く溶いた絵の具で花被片や葉の質感を線描で表現します。
6)茎の模様を点描で描き加えます。
7)子房を緑色で彩色して、柱頭と雄蕊を橙で平塗りした後、赤橙でさらにしっかり陰影をつけます。
8)柱頭と葯の質感、そして花被片の模様を焦茶色で点描表現します。
その他のユリの仲間の植物
左から、フリチラリア、チューリップ、キイジョウロホトトギス、スズランその他にもユリ科の植物は沢山あります。是非図鑑を調べてみましょう。