第20回ーダリアを描く
第20回ーダリアを描く
「花言葉が優雅だから君に似合うよってあなたは赤いダリアを買ってくれたね...」アンジェラ・アキさんの歌の一節です。昔、初めて愛した人を赤いダリアを見るたびに想い出すストーリーの歌です。
ダリアはバラと同じく花弁の枚数が多く、大変華やかな花ですが、どこかはかなげで、一瞬の時を刻む美しさがあります。変化の速いダリアの描き方のコツを学んでいきましょう。
ダリア ’ヨギ’ Dahlia 'Yogi'(キク科)
花のせいにしないために...
ボタニカルアートの指導に携わるようになって15年ほどになりますが、よくデッサンの途中で聞く言葉があります。「植物が育って変わってしまったのですが」、「花が枯れて無くなってしまったのですが」などです。植物学的な齟齬が生じない様に、現物を見ずに想像でデッサンを続けるのは難しいことです。
ボタニカルアートは時間との競争です。花の変化は言い訳にはできません。今回は、変化しやすいダリアをいくつかの個体を使って描いていきます。
まずは全体の姿を優先する
あくまでもこれは今回の作品についてです。描く個体と構図によって若干手順が前後することを念頭に置いて下さい。
まず初めに一鉢買いました。選んだ理由は株立ちが良かったことと、一番花が咲いていて、別の枝についている二番目もすぐに咲きそうだったことです。まずは一番花がついている一枝を描くことに決め、デッサンと構図を開始。花はあっと言う間にダメになってしまったので、二番花の咲くまでそのまま一番花の葉や茎を描きました。そして二番花が咲いたところで葉を描く作業を中断して二番花の花を描き始めました。ところが周辺の舌状花を描いたところで中心の筒状花が満開になってしまい、描き時を過ぎてしまいました。そのため、葉と茎を先に仕上げます。
そしてまた花屋へ
花にデッサンが中断してしまっているので急いで花屋へ...時がたつと同じ品種が入手しにくくなるからです。まず筒状花のきれいな花のついた株と、彩色の参考にもう一鉢買いました。本来なら筒状花のきていな花のついた株一鉢で良いのですが、あまりに株が弱っていたので、彩色用の保険としてもう一鉢買うことにしたのです。
花のルールを考えて...
それから、急いで筒状花のデッサンを完成されます(図1)後から考えると、筒状花を先に描いておくと描きやすかったと思います。(図2)。
左:図1 デッサン完成。 右: 図2 デッサン(花の拡大)。中心の筒状花は変化が早いので気をつける。
ここまでくればゴール間近
何とか現物のみを見てデッサンが終了しました。こうやって、写真を使わずにしっかり現物を見てデッサンをしましょう。植物の知識も高まりますし、デッサン不足のまま彩色に入ることがなくなります。デッサンがしっかり仕上がれば彩色は簡単なはずです。いつも通りの彩色手順を説明します。
手順は基本に忠実に
透明水彩で写実絵画を描く場合は、透明と明度の一番高い色で、一番奥(暗い部分)から彩色するのが基本です。そして徐々に塗り重ねながら、影のくすんだ色へと変えていきます。影に部分は重ねで暗くしているのです。ですから影の部分の下地には、明るい色がたいてい塗られています。今回の植物の場合は緑の部分がサップグリーンを淡く(彩色手順1)、花の部分はオペラとブライトローズを混ぜた色で舌状花の部分のみ彩色します(手順2)。
左:彩色手順1 一番奥の葉から、サップグリーンで彩色する。
右:手順2 舌状花をオペラ+ブライトローズで彩色し、葉にサップグリーン+プルシャンブルーを重ねたところ。
全体的なバランスを見て
下地の色で淡く立体感がついたら葉脈をぬきながら葉を濃く重ねていきます(手順3)。花は舌状花の中心に見られる模様を彩色します(手順4)。この段階でもまだ筒状花は一切彩色しません。
左:手順3 葉脈を抜きながら、サップグリーン+プルシャンブルー+ミネラルバイオレットを重ねる。花にも手順2の花色をさらに重ねる。
右:手順4 手順2の花色にローズバイオレット+ローズマダーを加え、舌状花の中心の重なりの下から、模様を彩色する。
総仕上げは落ち着いて
全体に手が入ったら最後に筒状花を彩色します。少しくぼんだ中心のつぼみをまず彩色します。そして、最後に落ち着いて、開花している筒状花を彩色します(手順5)。
手順5 筒状花は、レモンイエローで平塗りした後、イエローオーカー+サップグリーン+アイボリーブラックで影をつける。